本研究は、伊豆半島の前期古墳に関する基礎研究を推進するとともに、それらの造営を可能にした在地社会の動向を分析し、半島基部に形成された古墳時代前期の政治的拠点と東日本太平洋岸域における広域的なネットワークとのかかわりを明らかにすることを目的としたものである。最終年度となる本年度は、昨年度につづき静岡県函南町瓢箪山古墳の発掘調査を実施するとともに、本研究の全体的な成果をとりまとめた研究成果報告書を作成した。 瓢箪山古墳の発掘調査では、昨年度の調査で明らかとなった墳丘の形態や規模をさらに詳細に把握することを目的として、計3地点でトレンチ調査を実施した。また、初年度に実施した地中レーダー探査の結果をふまえ、埋葬施設の位置や範囲を確認するために、後円部頂でトレンチ調査を実施した。調査の結果、墳丘のトレンチでは、墳丘の規模や構造に関する有益な情報を得ることができた。一方、後円部頂のトレンチでは、埋葬施設に関係するとみられる遺構の一部を確認したものの、埋葬施設の位置や規模を確定するには至らなかった。 本研究では、3年間の研究期間をつうじて、伊豆半島の基部に位置する前期前方後円墳の実態について重要な新知見を得ることができた。とくに、あらたに確認された瓢箪山古墳が半島の基部を横断する陸路の基点に位置し、そのルートからの側面観を意識した非対称の墳丘構造をもつことが判明した点は、半島横断路を組み込んだ東日本太平洋岸域のネットワーク形成とその役割を考える上できわめて重要な成果であった。また、伊豆半島北部における弥生・古墳時代集落の動態について検討した結果、瓢箪山古墳が築かれたとみられる古墳時代前期後半には、同古墳の周辺で集落規模が拡大している状況や外部地域との交流が活性化している状況が把握された。これらの点も、当該期になって半島基部の交通上の役割が高まったことを示すものとして重要な成果であった。
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