研究課題/領域番号 |
16K03153
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨井 眞 京都大学, 文化財総合研究センター, 助教 (00293845)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 土器 / 黒斑 / 縄文時代 / 弥生時代 / 認知 / 土器棺 / 埋甕 / 方位 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、主に徳島で資料収集を進めた。縄文時代晩期は安置土器の事例がないが、弥生時代前期においては、土器棺では、胴下部に穿孔を持つ場合には、黒斑の上から穿たれて孔が地面側を向いており、穿孔を持たない場合には、黒斑が側面を向きそれは北側を向くものが目立つ。弥生中期以降の土器棺や横位の安置土器の場合も、黒斑が側面に向けられているものではそれが北面になるものが目立つが、これは主軸が東西方向をとることに呼応するので、四国における古墳時代の埋葬頭位の特徴に連なる可能性がある。また、京都盆地東北部の弥生前期では、完形の壷が横位で出土する場合、掘り方がある土器棺の場合も掘り方のない単独出土の場合も、黒斑が地面側を向く傾向にある。 前年度の成果も加味すれば、弥生前期の西日本では、土器を意図的に据え置く際に黒斑に対して意識がはたらくときには、それを視界に入らないようする場合と北側にその方位をとる場合の、二つの方向性がうかがえる可能性があると言える。 なお、近畿北部では縄文晩期から弥生中期にかけて黒色部が特定の向きをとるとは言いがたかった前年度の成果を踏まえ、西日本縄文後晩期社会の基層を形作った東日本的縄文社会の西縁に相当する、中部地方西辺での埋甕の向きについて解析を進めた。その結果、黒色部のある埋甕においては黒色部を屋外側に向ける傾向が顕著になる集落が存在したことを発見した。埋甕には煤の付着など使用痕を持つものが大半で日常使用品からの転用と考えられることから、黒色がもたらす不調和を認知して日頃から忌避的な意識がはたらいていたような集団が縄文時代から存在していた、と解釈している。 こうした点について、東日本西縁部の縄文集落と四国の弥生墓制との単純な比較はできないが、現段階では、強い規制がはたらいているというよりも共有されやすい嗜好や習慣が発露した、と考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
所属機関の博物館での平成29年9・10月の開催が急きょ決まった縄文土器に関する特別展の主担を、4月に命じられ、事前の具体構想から事後の収納に至るまで平日は業務に負われたために、実質的に冬季まで資料調査に赴くことができなかったことが最大の理由である。また、インパクトファクターの高い国際査読誌へ初めて投稿した際に、これまでの国際雑誌での経験以上に、英語表現および原稿内容に対する修正要求が高く加筆補訂に日数を割いたため、3Dモデルの試作・洗練に十分な時間を確保できなかった。 さらには、データの編集・画像処理の作業補助のための雇用予定者の確保およびその後の予定調整のために時間を要し、前年度分の画像データの処理は全点の完了にまでは至らなかった。 こうした状況に鑑みれば、研究発表や成果発信の件数は向上したものの、研究全体の進捗状況としては多少の遅れを自覚している 。
|
今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、資料調査に関しては、①平成29年度に実施できなかった、中国地方と北部九州で確認されている縄文時代晩期および弥生時代前期の埋設土器・供献土器の資料調査を実施する。今年度までのように調査日程の集約化を模索して一度に複数の調査機関を訪れるようにするのは、調整に手間取り却って非効率的な場合もあるので、単発的な調査にならざるを得ない場合でも調査を進められるならば、学休期間でなくても臨機応変に旅程を組む。②近畿地方については、調査組織は基本的に研究代表者の所属機関の近くに所在するので、日帰りの調査を重ねて対処できる。 これらの資料調査で得たデータの編集や画像処理については、平成30年度は作業補助の学生の継続的な雇用を見込め、既にスタートできている。 また、良好な個体の3Dモデルの作成は、細部調整による美観の向上よりも基礎データの理解促進という原点に立ち返り、量産化を進めていく。 なお、平成30年6月にパリで開催される先・原史学国際学会第18回大会への参加に際しては、平成29年度に国際誌に発表した論文に絡める内容にして、海外の研究者に本研究の視点と方法の有効性を訴えつつ情報と意見の交換を重ね、狩猟採集社会と農耕社会の認知構造や作法の差異に関する知見を深めるよう努める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成29年度は、インパクトファクターの高い国際ジャーナルでの論文公開に関わる印刷費等に要した金額は大きかったが、全体としては、冬季まで資料調査を実施できなかったために旅費が計上額より大幅に少なくなったこと、またデータ編集補助及び画像処理補助のための雇用を下半期まで実現できずに人件費が計上額よりもやや少なかったこと、以上の2点によって、次年度使用額が生じた。
(使用計画) 平成30年度は、6月にパリの大規模国際学会にて研究成果を発表するが、その後の夏季学休期間中には発掘業務に入ることもあり、それ以外の期間には集約的資料調査のための日程調整の難航によって調査自体が進まないことがないよう、単発的にならざるを得ない場合でも、実施可能な資料調査を適宜進めていくよう旅程を組む。具体的には、おもに中国地方・北部九州へ、一度に、1~2調査機関、2~5日程度の柔軟な日程で、赴く。 データの編集や画像処理のための学生雇用では、現段階で既に、一人の安定的・継続的な作業を確保しており、平成29年度に資料調査した分にあたってもらっている。しかし、平成30年度の調査によって収集し得るデータはこれまで以上の量が見込まれるため、今後の進捗に応じて、下半期にはもう一人増員する用意もしておく。
|
備考 |
2017年9月30日に催された京都大学アカデミックデイ(「国民との科学・技術対話」事業の一環)にて、「うつわの正面ど~れ」と題してポスター発表をおこなった。
|