研究課題
令和元年度は、北部九州の安置土器のデータ収集とともに中四国地方での補足的な収集も行ってから、4年間のデータを精査して、土器の正面観の全体的傾向と時期的異同をまとめた。縄文晩期については、器体の黒化の濃淡差が判然としない個体が多く、正面観の推測が困難である。東日本縄文中期の一部の集落や小地域に確認できる、安置土器の黒化部が特定方向を高比率で向くような傾向は、見いだせなかった。弥生前期については、安置の可能性のある土坑や柱穴の完形出土土器においては、どの地域でも、特徴的な向きに偏るような正面観を積極的に導ける結果を得られなかった。大型品が多い土器棺においては、中四国~近畿では、黒斑は①安置者の正面を向かず、②地面側を向くことが多いが、③同一遺跡内で向きが一方向には収まらない事例も多い。しかし、北部九州では、穿孔部が地面側を向く点で中四国と同様な傾向にあるものの、黒斑の有り様は異なる。黒斑を持たない個体も多いことに加え、黒斑の向きは地域的にも一遺跡内でもバラツキがあり、安置者の正面を向く例も少なくない。小型品が多い墓の供献土器においては、岡山市百間川沢田遺跡や松江市堀部第1遺跡や大野城市中・寺尾遺跡など、黒斑が、墓の中心を向くかその正反対の外側を向く事例が多数を占め、土器棺の安置の時よりも正面ないし背面を意識していたと思われる。それでも、松山市持田町3丁目遺跡のように特定の向きに収れんすることはない。西日本初期農耕社会における土器の安置を伴う儀礼では、行為痕跡として残る遺構は各地で共通点が多い。しかし、儀礼における行為者の認知構造の一端に迫るべく、土器の正面観について検討すると、穿孔部を地面側に向ける点以外は、持田町3丁目遺跡を例外とすれば遺跡単位でも共有状態を指摘できなかった。土器の3D画像モデルについては、数値目標だった30個体分のデータを収集し終え、モデル化を進めた。
2019年7月7日に、レキシル徳島で催された「2019発掘とくしま」講演会にて、「考古学のさらなる可能性と縄文時代研究」と題して、本研究に関わるテーマ・手法と成果も組み込んだ90分の講演を行った。
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