研究課題/領域番号 |
16K03155
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 照彦 大阪大学, 文学研究科, 教授 (10249906)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 手工業生産 / 須恵器 / 瓦 / 緑釉陶器 / 考古学 / 文献史学 / 窯構造 / 篠窯跡群 |
研究実績の概要 |
本研究では、具体的な分析対象として、古代の一大窯業生産地である京都府亀岡市の篠窯跡群のうち、西山1号窯を主に取り上げてきている。この窯は、摂関期に須恵器や瓦・緑釉陶器を生産した、当該期では全国的に稀な瓦陶兼業窯に当たるが、その出土品を中心に、種々の考古学的な検討を試みた。 まず、西山1号窯の瓦に関しては、工具や技術の変化から、西山1-1・1-2号窯という隣接する2基の窯について、層位学的な発掘成果とも整合するように、1-1号窯(灰原→窯内)から1-2号窯(灰原→窯内)へと時期的な変化を遂げていることが確認できた。また、その変化も漸移的で、技術的な連続性も認められることから、2基に断絶があるわけではなく、継起的に操業が行われたことを遺物から確かめることができた。 また須恵器に関しても、鉢の細部形態の変化など新たな着眼点をもとに、平安京などの出土資料と比較することによって、10世紀末から11世紀初め頃の操業であることがより確かなものとなった。さらに、関連遺物の出土地に関する調査も行い、西山1号窯の操業期は篠窯の須恵器生産の終末期であるにもかかわらず、須恵器が広域流通していることなどを確認し、中世に向けた変容の一端が明らかになった。窯体構造としても、西山1-2号窯の小型窖窯について類例を集めた結果、近江の緑釉陶器生産窯との関係が無視できず、近江系の緑釉陶器を生産していることも加えて、遠隔地との技術的関係を推測できた。 この他に、関連課題に関する研究会を継続して開催してきたが、本年度は植山茂氏に発表いただき、平安時代の瓦に関する認識を深めた。その研究会では、あわせて、西山1号窯の調査の途中経過も発表を行い、討議を行った。また、西山1-1号窯にみられる、特殊な小型三角窯を実際に復元して、焼成実験を行うプロジェクトに参画し、窯の特性などに関する情報の収集も行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現状としては、瓦陶兼業窯の実態をつかむために、研究協力者などの援助のもと古代・中世の窯業生産関係の検討を深めるべく、情報を収集し分析しつつある。窯業製品の多角的な分析として、瓦をもとにしたタタキ目など製作技術などに関して、篠窯跡群出土品により考古学的な分析を試みており、ほぼ成果があがってきた。また、生産地以外の具体的な分析事例としては、各地の出土品などの情報を収集して検討を行っており、広域流通の実態などを明確化しつつある。窯構造などに関する種々の検討も深まってきた。科学的な分析関係では、地磁気学的な検討などいくつかの試料の検討を進めており、鉛同位体比分析などによるいくつかの作業については、いまだ十分に成果の取りまとめには至っていないが、作業を進めつつある。これらのことから、おおむね進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、分野横断型研究会の開催を行う予定だが、これまでに自然科学の研究者ならびに考古学研究者を中心とした検討を行ってきたことから、本年度は文献史学の研究者による発表を予定しており、そのなかで本研究の残された課題である、手工業生産をはじめとする摂関期の位置付けなどの研究現状を整理し、それらの実態解明に向けて、考古学と文献史学の成果の総合化に取り組んでいきたい、 また、個別研究としては、篠窯以外での瓦陶兼業窯の窯構造や生産内容の比較についてもさらに考えていきたい。そのほか、考古学以外の手法での窯業製品の多角的な分析も進めていくことにするが、これまであまり対比がなされていない、瓦と須恵器についての成分分析による比較検討などの成果を出すことなど、分析化学の研究者と提携して検討を進める予定にしている。新たな科学的分析法の模索については、硬度による比較検討を考えたが、いくつかの手法を試した後に、新たに「ひっかき」による強度などをもとにした計測などの分析を始めている。 これらの諸検討を踏まえて、総括的な検討と歴史的な位置付けなどについて、取りまとめていくことを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に、自然科学的な分析を進める予定であった試料について、予備的な考古学的な整理などが少々遅れたこともあって、本年度中に分析を完了することができず、その費用などを次年度送りする必要が生じた。
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