本研究では、これまで考古学では注目が乏しかった摂関期の瓦陶兼業窯について基礎研究を行い、古代から中世への変質過程の解明を目指した。なかでも、平安時代の一大窯業生産地である京都府亀岡市の篠窯跡群のうち、当該期の瓦陶兼業であり、須恵器・緑釉陶器・瓦の併焼が判明した西山1号窯に関して、詳細に分析をしてきた。本年度は、その窯の遺構や出土遺物に関する検討をさらに深めて、最終報告書を刊行した。 報告書の中ではいくつもの角度から考古学的な分析を試みているが、これまであまり取り組まれてこなかった視点・方法として本研究において推進したのが、土器・瓦類の硬度の検討である。昨年度以前からも継続して取り組んできたが、押圧による硬度測定は軟質な製品には適さないため、ひっかき硬度による分析を進めて、定量化による時期的な硬度の変化の抽出や、硬化をもとにした焼成失敗品と焼き台再利用品の弁別などへの見通しを得ることができた。当該課題以外にも適用範囲の広い基礎的検討と考えている。 また、考古学的な分析以外にも、研究協力者により共同研究も進めた。まず文献史学側からは、考古学研究者には難解な部分も多い摂関期から院政期にかけての研究動向について、再整理する取り組みを行った。分析化学の分野では、上記の窯から出土した緑釉陶器類の釉薬の分析から、9世紀と10世紀とでは濃緑ぎみの発色において鉄と銅での成分差が大きいなど、いくつかの基礎的な実態も解明された。これらをふまえつつ、考古学だけでなく文献史料なども加味する形で、古代全般での窯業生産についての包括的な検討も研究代表者が試みている。 なお、上記以外にも、研究課題に関する検討会を行うとともに、西山1-1号窯にみられる小型三角窯の実験考古学を試みるプロジェクトに本年度も参画し、以前から継続する須恵器に加え、新たに緑釉陶器の焼成を試みて、さらなる情報を収集した。
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