本研究課題では、古墳時代青銅器の全体を視野に入れつつ、とくに日本列島で製作された倭鏡を具体的な分析対象として、その生産の実態を明らかにすることを目的とした。そのため、以下で示す3つの論点から検討を進めた。すなわち、第一に倭鏡を中心とした多様な古墳時代青銅器の製作動向と画期を量産技術の展開という観点から分析すること。第二に青銅器のデザインの系譜をたどることにより製作の基層観念に迫ること。そして、第三に上記の生産にみる技術と指向性の通時的検討をふまえて、古墳時代倭鏡の様式的展開をとらえること。そして、3つの論点にもとづく分析結果を総合化し、古墳時代において青銅器生産体制を長期に維持した社会的な要因と意義について考察した。 古墳時代倭鏡については、前期倭鏡、中期倭鏡、後期倭鏡として設定した倭鏡様式ごとに、文様デザインの違いによる系列の設定とそれら系列間の関係から、小様式の把握を進めた。その結果、まず前期倭鏡には古段階古相、古段階新相、新段階の3つの小様式を設定でき、それらが大きくは時期差を反映することを明らかにした。中期倭鏡については、製作技術の異なる大きく二つの製作系統が存在すること、うち一つの系統は前期倭鏡の系譜に連なり、いま一つは別の青銅器の生産から倭鏡生産へ新規参画したことなどを解明した。後期倭鏡は古段階、新段階古相、新段階新相の3つの小様式からなること、中期倭鏡において新たに倭鏡生産の参画した系統をベースに外来系金工技術者の参画のもとに生産が展開した点、古段階と新段階古相に前期副葬鏡群を「復古再生」する指向性をもつのにたいし、新段階新相は同時期の鏡を模倣する指向性が強いことを明らかにした。 このほか、巴形銅器や銅釧など古墳時代の型式の創出にあたっては、量産と弥生時代のデザインの復古再生といった製作指向性の高まりが背景となった可能性などを述べた。
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