研究課題
オリエント都市形成期のサラット・テペ遺跡で発掘した土器資料等をディヤルバクル博物館(トルコ)に保管していたが、治安状況を考慮して近隣都市(バットマン)まで渡航した上で、現地関係者の協力により分析用資料(一部)の国外持出し許可を取得して日本に持帰った。茨城県工業技術センター笠間陶芸大学校(茨城県笠間市)と東京大学(代理人:東洋文化研究所所長)間で業務委託契約を交わして、復原粘土・顔料、土器資料等の理化学的分析を実施した。おもな成果は以下の通りである。①調製した復原粘土は,平成27年度受託研究で製作したものとほぼ同様の元素組成と焼成による鉱物組成変化を示したため,土器製作再現試験に有用であると考えられる;②日本国内で市販されている原料で,顔料として用いられたと考えられる粉体と同様の元素組成を持つ復原顔料を調製し,復原粘土に施し焼成,熔着したことを確認した。よって調製した復原顔料は,再現試験に有用であると考えられる;③切断した窯壁試料の断面について,マイクロスコープによる組織観察,微小蛍光X線による元素組成分析を行った結果,同一試料では断面内で組織や元素組成はほぼ同様であることを確認した。各試料は均一に焼成されていると考えられる;④切断した土器片試料について,断面の組織観察を行った結果,同一試料の胎でも断面外側の方が断面内側より組織が緻密である試料が多数確認された。微小蛍光X線による元素組成分析の結果,同一試料であれば胎の元素組成はほぼ同様だった;⑤950℃,1000℃で焼成した土器片3試料についてX線回折による鉱物組成分析を行ったところ珪灰石(Wollastonite)が同定されたため,土器片は1000℃以下で焼成されたと推定される。デンマークのコペンハーゲン大学に収蔵されているオリエント都市形成期の土器資料についても、日本で分析する方向で関係者と協議した。
2: おおむね順調に進展している
本年度研究の最大の目的は、ディヤルバクル博物館(トルコ)に保管してあるオリエント都市形成期のサラット・テペ遺跡の土器資料を国外に持ち出す許可を取得することであったが、現地関係者の協力により無事に日本に持帰ることができた。また、北シリアで発掘された同時期の類似資料について、保管先であるコペンハーゲン大学(デンマーク)の関係者の協力により、日本の研究機関にて分析する方向で協議できた点も大きな成果といえる。
本年度は、初夏から秋にかけて国内で台風等による天候不順が続いたため、屋外での牛糞藁燃料の製作が極めて困難な事態になってしまった。同燃料は好天のもとで十分に天日干しせねば実験には使えないので、本年度は焼成実験そのものの実施を見送ることにした。今後の研究方策として、日本よりも乾燥した気候であるオリエントにおいて、土器焼成実験を実施する方向で関係者と協議していく予定である。具体的な候補地としては、トルコのカマン・キャンプを想定している。
すべて 2017 2016
すべて 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 図書 (2件)