研究課題/領域番号 |
16K03165
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
池谷 信之 明治大学, 研究・知財戦略機構, 研究推進員 (80596106)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 神津島産黒曜石 / 黒曜石原産地推定 / 海洋適応 / 現生人類 / 後期旧石器時代 |
研究実績の概要 |
1.神津島原産地の調査と島民を対象とする講演 2017年10月30日~11月4日 本島から4㎞南西にある恩馳島産出地では、海底の黒曜石の分布状況をビデオに収め、原石を採取した。その結果、火道中に生成した黒曜石の産状を初めて確認することができた。長浜・観音浦でも分布調査を行い、原石を採取した。あわせて島内に分布する流紋岩も数カ所で採取した。また神津島村の配慮で神津島黒曜石の重要性について村民に向けて講演する機会を得た。 2.関東・中部地方における遺跡出土の黒曜石原産地推定 常総市五輪前遺跡・相模原市橋本遺跡・富士宮市大鹿窪遺跡・諏訪市温泉寺横遺跡などから出土した黒曜石原産地推定を実施した。このうち橋本遺跡・大鹿窪遺跡では神津島産黒曜石を検出し、その類例を増やすことができた。 3.伊豆半島と伊豆諸島における流紋岩の採取 神津島産黒曜石に類似する化学組成の黒曜石が伊豆半島内に存在するのではないか、という疑問を払拭するには、黒曜石の「母材」となる流紋岩の組成が両地域で異なっていることを示すのが有効である。そのために神津島内と、伊豆半島南岸・天城山中において流紋岩を採取し、蛍光X線分析法による定性分析を実施した。これまでに採取した試料については、伊豆半島と神津島産の流紋岩は明確に分離できている。 4.旧石器時代における航海技術の検討 旧石器時代における神津島産黒曜石の海上運搬を実証するためには、産地分析とともに航海技術の検討が重要である。南伊豆在住のシーカヤッカーが神津島に何度か渡っているので、その航路や当時の海況について聞き取りを行い、渡海が可能になる気象的・海況的条件について検討した。また連携して研究を進めている海部陽介(国立科学博物館)が主宰している『3万年前の航海徹底再現プロジェクト』の研究会と実験航海に参加し、旧石器時代における丸木舟の存在と航海の可能性について発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究申請時の平成29年度の主目標は、神津島産黒曜石の地質学的検証であった。神津島と伊豆半島内の10数カ所で流紋岩を採取し、定性分析した結果、両地域の黒曜石(神津島産黒曜石と天城産・箱根産黒曜石)と同様に判別図上で両者が区分できる可能性が高まった。地質化学では、マグマの化学組成の変化は、火山フロント(ここでは相模トラフ)からの距離に規定されると考えられている。したがってその距離が異なる神津島と伊豆半島における流紋岩は、別の「火山群」に属している筈であるが、今回の分析によって改めてこうした地質学的なセオリーを再検証したことになる。 また、相模原市橋本遺跡の産地推定では、後期旧石器時代初期以降も神津島産黒曜石の搬入が続いていることが示された。 さらに謎とされていた神津島までの渡航方法のうち、海流(黒潮)が蛇行し冷水塊が出現するタイミングが渡海のチャンスであることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年は最終年度になるので以下の方針によって作業を進め、研究が所期の成果をもって収束するよう努める。 1.神津島産黒曜石出土遺跡のカタログ化 これまでに文献上で収集し、また産地分析することで明らかになった後期旧石器時代初頭の神津島産黒曜石出土遺跡を対象として、位置・立地・層位・年代・産地推定結果などの属性をコンパクトにまとめたカタログを作成し、英文化する。 2.伊豆半島・伊豆諸島における流紋岩の採取と蛍光X線分析 神津島産黒曜石の地質学的検証については、既に昨年度に見通しを得ているが、今年は新島・式根島および伊豆東海岸において流紋岩を追加採取して分析し、その成果を補強したい。 3.神津島への渡航方法と手段についての検討 昨年度、聞き取りを実施した南伊豆在住シーカヤッカーの神津島への渡航記を論文の形で公表する。海部陽介の『3万年前の航海徹底再現プロジェクト』の一環として実施中の旧石器時代の石斧を用いた丸木舟の製作実験に参加するとともに、各地の丸木舟の類例を調査して外洋航海可能な「舟」について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
経費の効果的な使用と支出に心がけた結果、多少の未使用額(2,944円)が生じた。研究全体は順調に進行しており、平成30年度の研究計画もおおむね申請時の予定どおりである。生じた「次年度使用額」については研究の取りまとめの作業を充実させるために有効に使う予定である。
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