研究課題/領域番号 |
16K03168
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中村 大 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, 助教 (50296787)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 北日本の縄文時代墓制 / データベース / 墓制の地域性 / 定量的分析 / 人口変動と墓制の変化 |
研究実績の概要 |
平成30年度の研究では、北日本の縄文墓制データベースの充実を図るため、データ追加作業を進めた。墓制の地域性を正確に把握するためには、各地域の資料を遺漏なく収集した網羅性の高いデータベースが必要不可欠である。特に、青森県内では津軽ダム関連遺跡群をはじめ数百基の土坑墓データを追加することができた。秋田県と岩手県についてもデータの補完作業を進めた。GISの空間分析に必要な遺跡の緯度・経度情報については、北海道・青森県・岩手県・宮城県・秋田県・山形県の全時代遺跡約45000ヶ所のデータ入力を完了した。しかしながら、本務の状況等に伴い、北海道における墓制データの追加作業については十分な時間を確保することが困難であった。 墓地の類型化を、墓坑形状、配石、赤色顔料、石製玉類など複数の指標を総合的に評価し行うための定量的分析手法については大きな進展を得ることができた。ロバストZスコアでデータを標準化し、ヒストグラムと相関係数で分類数や階層的分類の仮説を設定し、多変量解析の主成分分析とクラスター分析を組み合わせてその仮説を検証して最終的な分類を決定する、という新たな分析手法である。その結果、例えば晩期の墓地は土坑墓形状の構成で大きく分類することが可能である一方、赤色顔料の撒布や石製玉類の副葬は類型別・地域別に評価すべきであることが確認された。この分析方法により分類の過程と根拠を明示することができ、考古学以外の研究者にも理解しやすい研究成果の提示につながる。 さらに、縄文時代の人口推定研究も進み、人口変動と墓制の変化との関連性もより明らかになりつつある。縄文後期前葉の東北北部における環状列石の出現が人口増加と関連することを指摘できたことは大きな成果といえる。ただし、居住・生業形態との関連性分析については次年度に持ち越しとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
北日本縄文墓制研究の情報基盤となるデータベース構築については、東北北部ではおおむね順調に進んでいる。それによりデータの種類と記述項目の全体像を俯瞰することが可能になり、空間構造データベースとして遺構と遺物を一体的に扱うことが可能なデータベースシステム開発を進めることができた。多様なデータをコード体系として適切に分類し表記の統一を図るマスタテーブル群(遺跡マスタ・時期マスタ・遺構マスタ・遺物マスタ)を作成することにより、多項目で構成される墓・墓群・墓地の階層的な空間構造を、コードを組合せた1行のレコードおよびその集合として表現することが可能になる。各マスタには新規の種類や項目が随時追加可能であり、各レコードのより詳細なデータも項目ごとにサブテーブルを作成することで格納可能である。そして、遺跡ごと・遺構・遺物種別ごとなど各種の集計表をオンデマンドで生成できる点も本システムの特徴である。 こうした研究の進展の一方、より完成度の高い成果として公開するためにもう少しの時間が必要な状況が生じている。先述した拡張性の高いデータベースのフォーマットはシステムの調整に少々の時間を要する。また、人口の変動や地域的な偏りが墓制に予想以上に大きな影響を与えていた可能性がでてきており、この点についてさらに分析を進める必要が生じている。さらに、北海道の墓制および東北北部の居住・生業・祭祀活動のデータベース構築については、本務の事情等により十分なデータ収集調査の時間を確保できなかった。以上のような事情により、補助事業期間を1年間延長することとなった。したがって研究はやや遅れていると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に予定していた北海道の墓制データ追加作業および東北北部の居住・生業・祭祀活動に関するデータベースの整備を優先的に進める。今年度はデータ収集調査に赴く時間を確保できる見通しを得ている。本研究課題の最終年度にあたる今年度は、本研究の3つの目標である、①北日本の縄文時代墓制における地域的特徴の実態解明、②墓制の内容やその変化にみられる地域的な違いと人口状況との関連性推定、③居住・生業・祭祀活動との連動性の解明および墓制の社会的・象徴的意味の解釈について成果を取りまとめる。成果公開の方法としては、報告書の刊行とともにウェブサイトでの公開を進める予定である。データベースの公開については他の研究プロジェクトでの作業経験を生かし、著作権等に十分配慮し適切に行うよう留意する。また、新たに開発した縄文遺跡空間構造データベースは、遺構と遺物の情報を同じデータベースで管理できるこれまでにないシステムであり、他の研究者との共同利用による改良を進めていくことを計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
立命館大学グローバル・イノベーション研究機構の環太平洋文明研究センターにおいて研究代表者が統括している関西縄文遺跡データベース構築業務が多忙であり、平成30年度に予定していた墓制データの追加および居住・生業・祭祀などの社会状況推定用データの整備に十分な時間を確保することが困難であった。また、人口の規模や変動のデータデータも新たに必要となり、その整備に時間を要したため。 今年度に繰り越した助成金については、旅費は国内学会発表(東京)、北海道および東北地方のデータ補完調査に、その他はソフトウェアの保守費、ウェブサイト構築および報告書の刊行にそれぞれ使用する計画である。
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