研究課題/領域番号 |
16K03169
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
下垣 仁志 京都大学, 文学研究科, 准教授 (70467398)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 国家形成 / 文明論 / 古墳群 / 銅鏡 |
研究実績の概要 |
研究計画書の予定項目に沿って、今年度の研究実績を記す。研究全体を俯瞰すれば、今年度は個別の分析の深化に先行して、統合的な作業を進めすぎた感もある。 理論(A)では日本列島(A-1)の「考古学的な理論整理」に関して、単著『古墳時代の国家形成』において、権力資源モデルの詳細な解説と導入を試み、日本列島の国家形成を具体的に描出することで、考古学的な国家形成論に重要な寄与を行った。また、そうした内容の梗概を、講演会(「古墳と国家形成」)で発表して、市民にわかりやすく還元した。中国・韓半島(A-2)に関しては、資料収集のレヴェルにとどまったが、夏季に華北の山東省・河北省などの実地踏査を実施し、中国大陸における国家形成期の都城遺跡や考古遺物に関する知見を深めた。欧米(A-3)の「文明論と国家論の理論整理」に関しては、B・トリッガーのUnderstanding Early Civilizations(『初期文明の研究』)の翻訳を完了させた。 実践(B)では、遺構論的分析(B-1)に関して古墳群(首長墓系譜)の動態と国家形成との関連を、遺物論的分析(B-2)に関して鏡の保有と国家形成との関連を追究し、それぞれ著書『古墳時代の国家形成』で公表した。ただし、やや拙速な公表だった感があるので、次年度以降も引き続き当該テーマの検討を継続する。 以上のように今年度は、目立った成果は単著1冊にとどまったが、自身の国家理論と実践的適用をまとめたことの意義は小さくない。また今年度は、著書の執筆と翻訳の作業に邁進したので、その成果は次年度にまとめて公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書の予定項目に沿って、現在迄の進捗状況を概記する。非常に順調に進んでいる項目と、進捗が芳しくない項目とが混在しているが、総じていえばおおむね順調に進行している。 理論の日本列島(A-1)は、文献的研究の理論整理は進んでいないが、考古学的な理論整理は予定以上に進んだ。中国・韓半島(A-2)は文献の収集と実地踏査を行った以外めぼしい成果はまだないが、他方で欧米(A-3)の文明論の翻訳は予定よりもかなり早めに大著の翻訳を完成させ、次年度中に刊行される。 実践の遺構論的分析(B-1)については、畿内の古墳群の集成と首長墓系譜論の学史整理はすでに完了し、首長墓系譜と国家形成論の関連づけも終了した。遺物論的分析(B-2)についても、鏡の保有と国家形成との関連づけもおおむね有効なデータを得て終了した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題については、おおむね順調に進行しており、最終年度には当初の予定をおおむね完了させ得る見通しを得ている。ただ、近年の国家形成論や政治史論に関する理論研究を進めるなかで、器物自体の行為者性を重視する重要な説を知り、その面からの研究を進めているほか、青銅器(鏡)自体の考古学的分析と文献史との統合的理解、埋葬における副葬鏡と埋葬人骨との関連性の検討なども進めており、その成果を当初の予定である「各種青銅器の重量分析」と「酒造関連遺構の分析」の大半に差し替えて、より統合的・総合的な国家形成論に結実させるかもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末に初期文明の発祥地(エジプト)を踏査できる可能性があったが、公務と重複して渡航できなかったため。
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