研究課題/領域番号 |
16K03171
|
研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
牟田口 章人 帝塚山大学, 文学部, 教授 (60744521)
|
研究分担者 |
河上 繁樹 関西学院大学, 文学部, 教授 (10224734)
村上 智見 帝塚山大学, 文学部, 特別研究員 (70722362) [辞退]
福本 有寿子 関西学院大学, 文学研究科, 研究員 (50784039)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 中国 / 遼時代 / 染織 / 平安時代 / 陵墓 / 副葬品 / ガラス器 / 正倉院宝物 |
研究実績の概要 |
中国内蒙古自治区にある内蒙古博物院の収蔵庫で昭烏達盟赤峰大営子にある遼時代初期の附馬贈衛国王墓(1953発掘)と同じく興安盟代欽塔拉遼墓(1991発掘)の2墓より出土した染織類を調査を行った。築造年代はいずれも10世紀前半に遡る。両墓は、いずれも遼(916-1125)の初期に属する最高位の貴族の墓で大量の染織類が出土した。10世紀の染織は遼墓からの出土品以外、状態の良いものはアジア全体を見回しても少ないので遼墓の研究は染織史の上で極めて重要である。調査初年度は32件の染織類の計測・写真撮影・考察を行った。対象染織には一級文物(日本の国宝に当たる)も複数あり、遼時代の染織類の製造水準が高度かつ多彩であることが確認された。遼は我が国の平安時代に該当する。平安時代の染織の実物は殆ど残っていないが、我が国の10世紀から12世紀にかけての染織の実態を推定する事が今回の調査によって初めて明らかになってきた。調査期間は平成28年8月22日から9月2日に及び、12日間を染織の熟覧に当てることが出来た。日本人の研究者が内蒙古博物院の収蔵庫内で館蔵品の染織調査を行ったのは今回が初めてのことである。 一方当初予定されていた遼王朝の陵墓研究だが、博物院調査と時を同じくし、遼の第6代聖宗の妃である蕭氏貴妃の陵が発掘された。異民族とはいえ、遼時代の陵の発掘は中国考古学史上初めてで、豪華な副葬品と共に墓誌も出土したので、遼時代の陵墓研究は大きく進展しようとしている。内蒙古博物院からは西暦993年に葬られた蕭氏貴妃墓を協同で研究し副葬品の整理等を行いなわないか、との提案を受け、これを受託した。穆宗の陵墓については現地が外国人に対し未開放で立ち入り制限があるので、懸案事項とし、平成28年度時点では研究対象である遼時代の陵研究の対象を遼第四代の穆宗陵から遼第六代聖宗の妃である蕭氏貴妃陵に替える事とした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国国内での文化財調査や考古学的調査、そして研究の成否は対象を管理する機関との協力関係をどれだけ友好的に構築できるか、にかかっている。幸い本研究代表者は内蒙古博物院から深い信用を得て、日本側の調査・研究希望要項について同意をする旨の書面を交わすことができた。さて遼時代の染織類については、当初考えていたよりも遥かに大きな知見を得ることが叶った。すなわち、10世紀の遼で織られた染織類が唐時代以前の中国王朝の伝統を受け継ぎながら、北方民族としての独自性を発露し、発展していること。そして平安時代の染織類のうち、かなりのものが遼で織られ、我が国にもたらされた事を予見させるものであることが確認できた。一方金銀糸を隙間なく織り、或いは刺繍した豪華絢爛な染織類が多く確認できた事も大きな収穫だった。こうした金銀糸を大量につかった染織類は我が国の正倉院にはなく、北方騎馬民族の特徴であることも推定される。一方、陵墓の研究については、当初リモートセンシングによる遼時代の未確認の皇帝陵の地上探査を予定していたが、内蒙古博物院より、訪中時にまさに発掘中の遼第六代皇帝の夫人の陵からの出土品の調査と修理の提案があった。中国では「墓」とされるが、我が国では天皇とその妻の奥津城を御陵とし、それ以外の皇族については「墓」としているので、中国側は蕭氏貴妃墓と呼ぶが、本研究ではこれを「陵」と定義する。その蕭氏貴妃"陵"発掘は、2016年の中国考古学十大発現のひとつに指名されるほと、内蒙古自治区にとっては重要な成果、とされる。西暦993年に造営された蕭氏貴妃陵の墓室内からは皇帝の伴侶に相応しい金銀玉瑠璃を惜しげもなく使った副葬品が多数発掘されている。本研究の主題が遼時代の陵墓研究であるので、内蒙古博物院からの提案を受諾することとした。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度は遼時代の主に綾組織の染織調査が中心だったが、今後は埋葬年の分かっている遼の皇族墓から出土した錦の調査に進み、遼時代の染織の性格と編年を明らかにしてゆく。内蒙古博物院からは蕭氏貴妃墓出土の4点の吹きガラス製造法によるガラス器の修復の依頼を受けたが、修復事業は本研究の対象ではないので、内蒙古博物院が我が国の住友財団の補助を受けるべく本研究代表者が推薦人となり、日本の修理専門家が修復を行うこととなった。本研究では蕭氏貴妃陵より発掘されたガラス器を通じ、10世紀の中央アジア以西のガラス産地と遼王朝の交易、さらには我が国平安時代にもたらされたガラス器の共通産地にまで調査を進めることも計画している。また、遼時代の「陵」からの出土品と、「墓」からの出土品の差についても内蒙古博物院及び内蒙古文物考古研究所に収蔵されている幾つからの大貴族の墓の出土品を比較し、研究を進めたい。内蒙古自治区では21世紀に入り、発掘による考古学的成果が著しい。こうした知見を我が国でも敷衍してゆくために、本年度と来年度は内蒙古博物院の研究者に訪日をしてもらい、我が国で内蒙古自治区での考古学上の最新研究成果を発表してもらう機会を本研究により実現をしたい。蕭氏貴妃陵は、2016年に発掘が終わり、現在一旦墓室の入り口を封鎖している。将来はここを遺跡公園にする計画もあることから、内蒙古博物院に依頼し機会を見て現地の調査も実現することを交渉している。
|