研究課題/領域番号 |
16K03171
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研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
牟田口 章人 帝塚山大学, 文学部, 教授 (60744521)
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研究分担者 |
河上 繁樹 関西学院大学, 文学部, 教授 (10224734)
村上 智見 帝塚山大学, 文学部, 特別研究員 (70722362) [辞退]
福本 有寿子 関西学院大学, 文学研究科, 研究員 (50784039)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遼 / 墓 / 中国考古十大発現 / 陶磁器 / 染織 / 古代ガラス / シルクロード / 草原の道 |
研究実績の概要 |
本年度は、中国内蒙古自治区・内蒙古文物考古研究所盖志勇所長等2名の研究者を奈良に招請し2018年2月25日、奈良県立橿原考古学研究所講堂で「遼代王妃墓の謎を探る」という特別講演会を開催した。内蒙古のシリンゴル盟多倫県小王力溝で2015年に見つかった簫氏貴妃墓は、新中国で初めて発掘された遼の皇帝の伴侶の陵墓である。遼の第6代皇帝・聖宗の王妃の陵墓からは貴族や皇族墓よりも2ランク上の副葬品が多く見つかり、現在も整理中である。本研究代表者の牟田口は簫氏貴妃墓の副葬品の調査・復元等広範な分野で内蒙古自治区と共同研究を進めており、その成果を日本で紹介するのが、本講演会であった。幸いにして専門家のみならず一般市民の関心も高く、会場は立ち見席が出るほどの満席となった。この講演会等は新聞各紙・地元テレビニュースでも大きく取り上げられ、ややもすれば地味なテーマである海外遺跡の調査について多く市民に知ってもらう機会を得ることができた。 ところで、簫氏貴妃墓の発掘は中国では2016年度の国家十大考古発現に指定されているほど重要視されている。蓋所長が海外で初めて発表する内容は遼時代の陵墓の選定に風水師が関わっていることが、墓出土の墓誌により判明したこと。副葬品の陶磁器の中には聖宗が皇子の時代に宮廷で使っていたことが分かるものがあり、いずれも10世紀の中国では傑出した作行のものばかりであること等が報告された。また研究分担者の福本は前年度に内蒙古博物院で調査した遼代の染織類の報告を行った。東京理科大学の泉は、簫氏貴妃墓から発掘された4点のガラス器がいずれも西アジアではなく、中央アジア産であることをガラスの微量成分分析から明らかにした。牟田口はこれを受けて、遼時代にはシルクロードや南海経由ではなく、北方のステップルート、いわゆる草原の道を辿って中央アジア諸国と遼が貿易を行っていたことを報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中国は学術交流にも国家の厳しい制限が付くので海外研究者が自由に現地へ赴き、自ら考古学的発掘・測量ができる国ではない。しかし、本研究代表者はこれまで長年に亘って内蒙古自治区の文物行政担当者と交流を重ねてきたので、海外研究者としては破格の厚遇を受けている。前年度、当初より希望をしていた遼の皇帝陵調査は叶わなかったが、代案として内蒙古側が提案してきた簫氏貴妃墓の共同研究は、墓室内から出土した墓誌銘、副葬品のいずれもが皇帝の伴侶に相応しい傑出したものだったので、遼時代の陵墓研究の進捗は当初の想定を上回る成果を得ることが出来た。とりわけ、同墓出土のガラス器の成分分析調査から、遼の王宮で使われるガラス器がウズベキスタンのサマルカンドを中心とした中央アジア地域から齎らさたことがわかったことはガラス交易のルートの多様さを証した、といえる。今年度は内蒙古自治区の研究者の招請を主眼に研究を進め、共同研究者の中では最も高い地位にある内蒙古文物考古研究所所長自らが来日して、遼代考古学の最新成果を日本に伝えた意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
簫氏貴妃墓は、墓道の崩壊の危険があるので現在埋め戻している。今年度は内蒙古文物考古研究所の要請に応じ、内蒙古側が既に計測をしてある墓全体と副葬品の3次元計測データをもとに現状と、埋葬当時の様子をコンピューターグラフィックスによるバーチャルリアリティ映像製作を予定している。一方、簫氏貴妃墓・吐爾基山遼墓・耶律羽之墓・陳国公主墓という皇族墓から出土した遼時代の錦の調査を行い、我が国の平安時代にあたる遼の染織が我が国に与えた影響について比較調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度は、遼時代の第6代皇帝聖宗の王妃の陵墓である簫氏貴妃(993年薨)墓のVR(バーチャルリアリティ)技術による墓室内の復元事業を日中共同で行う。また遼時代の陵墓出土染織類の調査を継続して行う。以上のテーマに沿って日中双方了解を得て研究を推進する。このため、平成30年度は5月に研究代表者が内蒙古自治区フフホト市で事前に研究推進の調整を行う。
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備考 |
基盤研究と並行して日中合作事業として行われた簫氏貴妃墓出土のガラス器の修復について、内蒙古博物院が事業の紹介を行っている。また、帝塚山大学が主催した簫氏貴妃墓の日中合同特別講演会についての紹介を大学HPで行っている。
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