研究課題/領域番号 |
16K03175
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研究機関 | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、 |
研究代表者 |
寺井 誠 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、, 大阪歴史博物館, 主任学芸員 (60344371)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 新羅 / 鉄鐸 / 角杯 / 鍛冶工具 / タタキメ |
研究実績の概要 |
本研究は、日本列島の古墳時代中後期(5~6世紀)における朝鮮半島系の渡来文化の故地を具体的に明らかにし、その分布のあり方から対朝鮮半島交渉の姿(具体的な地域間交渉など)を解明することを目的とする。特に重点を置くのが日本列島出土の新羅・加耶系資料で、具体的に研究対象とするのは鍛冶工具(鉄鉗・鉄槌など)や鍛造鉄鐸・丸底の甑、鐔付鉄鉾、角杯、平行文・放射状文・格子文など同心円文以外の当て具痕跡をもつ土器などである。最終的な目的としては、日本列島における新羅・加耶系文化要素の受容のあり方を整理し、百済系文化要素の受容との対比を行うことを通じて、古墳時代中後期における各地域独自の対朝鮮半島交渉の存在や、文化要素による選択的受容など、渡来文化受容の具体像にせまりたいと。 なお、平成28年度は鉄鐸、鍛冶工具、角杯などの調査に重点を置いて進めた。日本や韓国にて実物調査を行い、特に鉄鐸についてはその特徴をよく把握することができた。成果については、平成29年度の大阪歴史博物館特別展『渡来人いずこより』などで公表するよう準備を進めた。 研究発表は、「新たなものを生み出す渡来文化-「百済のようで百済でない竈」の紹介を通じて-」(『河内の開発と渡来人-蔀屋北遺跡の世界-』大阪府立狭山池博物館展示図録)の1件であるが、平成29年4月以降に『渡来人いずこより』展示解説図録などが刊行されることになっている。 研究成果の一般市民への還元については、平成29年1月に4回連続講座『特別展プレ連続講座 渡来人いずこより~渡来人のふるさとをたずねて~』を開催し、定員250名を超える参加者を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本では近畿地方各地や岡山県、福井県にて鉄鐸、角杯などの朝鮮半島系考古資料の調査を十分に行うことができたが、九州地方など資料の多い地域の確認調査が十分できなかったため、次年度以降に補足したいと考えている。 鉄鐸については、石突と混同されていたり、不明鉄製品として報告されていたりする事例もあるものの、実物調査を通じて鉄鐸と新たに同定できたものもあった。調査を重ねた結果、5世紀中頃から6世紀前半の鉄鐸が岡山や香川、兵庫北部(丹波)、西部(播磨)で分布している一方で、同時期の河内や大和といった畿内中心部には分布しないということを確認することができた。 また、角杯については赤根川金ヶ崎窯跡(兵庫県明石市)と興道寺窯跡(福井県三方郡美浜町)といった生産地の資料や、大阪府や兵庫県などで出土の角杯の調査を進めた。これらはいずれも5世紀後半から6世紀前半のものである。西岩田遺跡(東大阪市)のような畿内の事例もあるものの、多くは周辺地域であるという点は鉄鐸の分布と共通することを確認した。 韓国では国立大邱博物館などで嶺南地方出土の鉄鐸、鍛冶工具、角杯のほか、鐔付鉄鉾や鉄製三葉大刀といった資料についても、日本出土資料との比較のための調査を行うことができた。鉄鐸については修正作業を通じて、あらためて新羅の領域に多いことを再確認できた。また、円筒形で折り返した天井をもつものと、円錐形のものがあり、量的には前者と後者は4対1の割合で、前者が圧倒的に多いという見通しを得た。日本列島では後者のような形ばかりであるため、それがどのような要因なのか今後検討しなければならない。角杯については、5~6世紀の資料を調査したが、より古いものが細身であり、どちらかというと慶州よりも洛東江沿岸地域で多く分布するという傾向を把握できたが、これの可否やその要因については今後検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
鉄鐸や角杯の研究については、前年度に達成できなかった地域の資料調査を進めたいと考える。調査対象と考えているのは、カクチガ浦3号墳(福岡県那珂川町)などの九州地方の鉄鐸・鍛冶工具や、上久津呂中屋遺跡(富山県氷見市)など北陸地方の角杯などである。また、その都度情報収集を行いながら、新資料の確認についても並行して行いたいと思う。 今年度重点を置きたいのが、新羅・加耶の特徴をもつ土器の調査である。先行研究でもよく取り上げられている搬入土器のほかに、当て具痕跡や外面のタタキメの特徴によって故地を探る研究を進めたいと考えている。朝鮮半島で当て具痕跡を残すのは嶺南地方、すなわち新羅・加耶で数多く事例がある一方で、京畿道・忠清道・全羅道といった百済では当て具痕跡は残さない傾向がある。また、タタキメについては横位平行タタキが分布するのが加耶の領域で多くある。 土器の調査で重点を置きたい地域が、古墳時代中期の紀ノ川流域である。ここでは横位平行タタキが在地の土器に取り入れられる。以前1度調査した際には朝鮮半島系の炊飯具(甑・長胴甕・鍋)に横位平行タタキが採用されているのを確認しているが、さらに調査を進め、当て具痕跡の有無についても確認したい。なお、紀ノ川流域では馬冑が出土した大谷古墳のように加耶との関連性が認められる古墳があり、土器を含めた地域の総合的研究によって、地方の対朝鮮半島交渉のあり方のモデルを作り上げることができるという期待が持てる。 以上の点について、韓国で地域的特徴の裏付け調査をするとともに、日本国内で報告されている資料の調査を進めることによって、新羅・加耶系土器から漏れてしまった資料の収集を行いたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は近畿地方やその周辺地域においては予定以上に充実した資料調査ができたが、九州地方など遠方での調査ができなかった。残額はその差額である。
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次年度使用額の使用計画 |
九州地方など遠方の資料調査の旅費に当てる予定である。
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