研究課題/領域番号 |
16K03177
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研究機関 | 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術 |
研究代表者 |
岡村 勝行 公益財団法人大阪市博物館協会(大阪文化財研究所、大阪歴史博物館、大阪市立美術館、大阪市立東洋陶磁美術, 大阪文化財研究所, 事務所長 (70344356)
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研究分担者 |
坂井 秀弥 奈良大学, 文学部, 教授 (50559317)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 考古遺産マネジメント / パブリック・アーケオロジー / コミュニテイ考古学 / 現代考古学 / 災害と考古学 |
研究実績の概要 |
「考古学、考古遺産が生み出す価値の社会化にはどのようなシステムの(再)構築が必要か、人材の育成を進めるべきか」という研究課題のもと、3つの柱、①コミュニティ(市民参加型)考古学、②考古遺産マネジメント、③人材育成・専門的技術の継承、に沿って、欧州を中心とするデータの収集・整理を進めるとともに、日本のそれらの状況について海外発信を行った。 4月、英国で開催された考古学者協会(CiFAの「考古学専門家としての技術・知識、プロフェショナリズムと倫理」ワークショップにおいて、日本の職業考古学、遺跡調査の課題(①経済に左右される組織運営、②市場原理の拡大、③人材の育成・専門技術の継承)を発表した。英国、米国、アイルランド、ドイツ、オランダ、スペイン、イタリアからの報告にも日本との共通点が多かったが、ドイツを除き、民営化が進展する国々では、より深刻な状況にあることを確認した。8月末、マーストリヒトで開催された欧州考古学者協会(EAA)で、コミュニティ考古学、パブリック・アーケオロジーに関する約20本の発表を取材、意見交換し、先の危機感を再確認した。1992年の「考古遺産の保護に関する欧州協定」(マルタ協定)から25年、遺跡調査は増大した一方で、それに見合った価値が社会にもたらされていないという批判・自覚は高まり、社会的な発信の強化、考古学のプレゼンス向上に努める報告が多く、スウェーデン、英国では、国レベルで遺跡の調査体制の総合的な見直しが進んでいる情報も得た。 こうした欧州を含む国際的な状況について、2016年の世界考古学会議(WAC-8)の関連報告の分析を元に、日本考古学協会において発表した。また、東日本大震災の復興調査を含む、日本の遺跡調査体制の進展について、英文刊行物で共同発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
①コミュニティ考古学、②考古遺産マネジメント、③考古学の人材育成、の3本柱について、国際比較に必要なデータの整備・分析を進めているが、当初の想定より、欧州の現代考古学の状況が、複雑かつ多様で、また適切なデータの入手が困難な場合もあり、限られた時間のなかで、均質的なデータの形成に手間取っていることが挙げられる。 具体的な進捗状況は、①の市民参加型プロジェクトの事例収集については、当初予定していた8割程度に留まっている。②については、成果の一部を英文刊行物で公表できたこともあり、ほぼ計画通りである。③については、現在、大学・研究機関、埋蔵文化財調査機関の喫緊の課題であり、関西では自治体・大学連携という国際的にもユニークな取り組みが進められており、課題に関する具体的なデータはほぼ整備されている状況にあるが、欧州の考古学者の実態調査(DISCO)のデータとの標準化が不十分な段階にある。 欧州各国の①~③に関する基本的なデータ・文献などの収集については、2016年世界考古学会議京都大会で構築されたネットワークにより、アクセスしやすい環境が進み、また二度の欧州調査で多くの最新のデータも収集できたが、その全般的な分析は不十分な段階に留まっている。なかでも、コミュニテイ考古学に関する最大の情報源であるNEARCHの活動調査についても、予定していた関係者の招聘の日程調整が不調に終わり、EAA大会期間中の短時間しかヒヤリングしかできず、情報収集が不十分な段階で留まった。 現地調査で得た欧州の現代考古学に関する知見、海外における日本の現代考古学の発信については、当初計画には至らないものの、一定の成果を収めていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
この二年間の研究により、不十分ながらも、欧州各国の現代考古学に関する基本的な状況を把握できた。なかでも、各国の「考古学と現代社会」の基盤となる考古遺産の調査体制について、市場原理主義の圧力が高まるなか、細部に違いはあるものの、国家・自治体主導型(デンマーク・ノルウェイ・ドイツ・フランス・イタリア・ギリシャなど)と民間会社主導型(英国・オランダなど)に2大別できること、また、前者に基盤を置きながらも、後者の要素を取り入れ、全体の活性化を目指す、スウェーデンの新しい動きがあり、それぞれ異なる国家観・文化伝統に基づくことを自分の目で確認できた。 最終年度の研究の集約にあたり、日本との比較対象は欧州全般を念頭に起きつつも、日本に近い体制のフランス・ドイツ、体制がかなり異なる英国・オランダ、先進的な取り組みで定評のあるスウェーデンの五カ国を核として、各種資料の厳選を行い、研究をすすめたいと考える。これらの国は、「持続可能な」考古学に関わる取り組みについても、欧州考古者協会(EAA)、NEARCHなどで積極的な取り組みを行っており、課題研究の所期の目的である、日本の考古遺産マネジメントの課題、構造、特質の可視化、政策提言、諸課題の是正に有効な方法の開拓、が可能と考えられる。 具体的な活動としては、1)コミュニティ考古学、考古遺産マネジメント、人材育成について、データの欠落を補いつつ、標準化を進める。2)これまでの市民参加型活動の状況に詳しいNEARCHの関係者の招聘を行い、日本の研究協力者との意見交換を通じて、研究の整備を図る。3)各国の研究者が一堂に集まるEAA(9月、バルセロナ)において研究発表を行うとともに、課題研究の問題点の解消を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きな点として、当初、欧州主要国の地域参加型考古学を主導するNEARCHの中心人物を招聘する予定であったが、先方の職場変更も重なり、日程調整がかなわず、平成30年に再調整することとなったことが挙げられる。そのほか、収集資料のデータベース化について、補助アルバイト、IT機器の導入のタイミングを逸したことも影響している。
(使用計画) 欧州主要国の地域参加型考古学を主導するNEARCHの中心人物を平成30年秋を目処に招聘する。資料のデータベース化についても、年度当初に取りかかるように計画する。
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