研究課題/領域番号 |
16K03179
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
廣瀬 覚 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (30443576)
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研究分担者 |
大澤 正吾 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (40710372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 埴輪 / 生産組織 / 三次元計測 |
研究実績の概要 |
初年度となる平成28年度は、奈良盆地およびその周辺地域を対象に、5世紀後半から6世紀代にかけての埴輪出土遺跡の文献収集と基礎情報の整理をおこなった。対象資料の9割程度の資料を収集するとともに、図面、写真類の収集、および主に円筒埴輪の口縁部に描かれるヘラ記号の整理をおこなうことで、当該期の奈良盆地における埴輪の系統識別、生産・流通体制についての見通しを立てた。 また、奈良文化財研究所が所蔵する木津川市音乗谷古墳出土埴輪を用いて三次元計測による埴輪のデータ化試験を実施した。同一個体の埴輪に対し、従来型のレーザースキャン(コニカミノルタ製VIVID990)による方法と、Agisoft社のPhotoscan Proを利用したSfM-MVSによる方法とを比較した。その結果、両者から作成した三次元モデルにはほとんど誤差がなく、両モデルから抽出した等倍画像を使用してハケメパターンのマッチングも可能であることを確認した。同時に音乗谷古墳出土埴輪に対する悉皆的な観察と調書作成を行い、同古墳の埴輪生産組織復元にむけての基礎的な検討を実施した。 このほか、兵庫県明石川流域の埴輪の展開過程を検討し、その成果を『第17回播磨考古学研究集会』の記録集に公表した。とりわけ、同流域の6世紀代の埴輪が一元的ではなく、モザイク状の展開を示す点を取り上げ、その背景に流域内の各勢力と奈良盆地をはじめとする王権中枢部の拠点的な埴輪生産地との個別直接的な交流の存在を指摘した。さらにその実態として、流域内の各勢力から王権中枢部への製作者の上番を読み取り、その現象こそが「部民制」の一部を示すものとの予察を提示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象地域における6世紀代の埴輪出土遺跡の文献収集をおこなったことにより、次年度以降の作業環境が整った。また、埴輪に対する三次元データ化の検証を終えたことにより、次年度以降、埴輪データを蓄積と分析を効率的に遂行していく見通しが得られた。 さらに、奈良文化財研究所所蔵の木津川市音乗谷古墳出土埴輪に対する悉皆的な観察と調書作成を終え、同古墳出土埴輪の生産・流通体制を復元する手応えが得られた。 ただし、他機関所蔵資料の下見・実見については、ほとんど実施することができなかった。結果的に初年度の目標として掲げていた奈良盆地内の埴輪の系統識別については、文献資料や既存の理解にもとづいて仮説を立てるに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者と共同で、或いは手分けをして、対象資料の下見を迅速におこない、メインとなる対象資料の選定と三次元データ化を遂行する。 当初、研究費内で購入可能な三次元レーザースキャナーを購入して、データの蓄積を図る計画であったが、初年度で検証したAgisoft社のPhotoscan Proを利用したSfM-MVS法でも、求める計測精度が得られることが判明した。ソフト、パソコン等の購入費用も当初より安価となるため、速やかに器機類を整備し、計測に着手する。取得してきたデータの合成、分析にあたり、計測環境の整備予算の残余次第では、データの合成を業者委託して、できるだけ情報整理をスムーズに進める。 その上で、作成した画像を出力し、再度、資料の所蔵先に出向き、同工品識別を高精度でかつ効率良くおこなう。
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次年度使用額が生じた理由 |
応募申請時の計画では、初年度に三次元レーザースキャナー、およびデータ処理のためのパソコンを購入して、分析を遂行する予定であったが、交付額が計画に必要な額に達しなかったため、初年度は試行作業として三次元計測業務を業者委託して執行額を抑え、次年度の交付額を踏まえて、機器類を購入することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
結果的に初年度の計測業務の中で、レーザースキャナ-による計測とSfM-MVSによる計測方法とを比較することで、後者の方が作業効率が良く、かつ同等の計測および分析が可能で、費用も安価に抑えることができることが判明した。このため、翌年度にSfM-MVS法で必要となるソフト、高速度処理が可能なパソコン、フルサイズセンサー付カメラ等を購入した上で、計測・分析を遂行する予定である。
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