研究課題/領域番号 |
16K03179
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
廣瀬 覚 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 主任研究員 (30443576)
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研究分担者 |
大澤 正吾 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (40710372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 埴輪 / 生産 / 流通 / 階層 / 序列化 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、奈良盆地およびその周辺地域を対象に5世紀後半から6世紀代にかけての埴輪の実見・検討を鋭意進めた。とりわけ、桜井市、橿原市域の群集墳出土埴輪を精力的に実見し、系統の異なる埴輪が同一の消費地内において普遍的に共存する状況を確認した。この考古学的な事実は、奈良盆地南部では、古墳群単位で特定の系統の埴輪が集中生産されるような状況にはなく、むしろ盆地内にいくつか存在するであろう拠点的生産地から製品が広域的に供給されており、各古墳群ではそれらを客体的に受容・消費していたことを示すものと考えられた。 以上のような生産・流通状況の分析作業を踏まえて、あらためて当該期の奈良盆地における各古墳の円筒埴輪の段構成を悉皆的に集成・整理し、古墳の形状・規模との相関性を検討した。その結果、奈良盆地を中心とする王権中枢部では、埴輪の系統差を超えて円筒埴輪の段構成がきめ細かく序列化されており、古墳の形状・規模が示す階層的序列と厳密に対応する状況が明確となった。この点は、各群集墳において埴輪が主体的に生産されてはおらず、拠点的生産地からの供給を受けて客体的な消費状況にあるとの上述の成果と表裏の関係にあると捉えることができる。すなわち、古墳時代後期における埴輪の拠点的生産地の設置は、当該期における盆地内の諸勢力を対象とする新たな古墳・政治秩序の形成と連動したものと見通すことができた。 その点を踏まえて、円筒埴輪の段構成による序列化が奈良盆地のみならず、日本列島各地でも同様に確認できるかどうかを検討した結果、列島各地でも主体的に生産が展開しつつも、大きくは王権中枢部の序列化を受け入れている状況を確認することができた。 以上の成果については、学会報告、論文等を通じて公表、発信した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、本年度が本研究課題遂行の最終年度となる予定であったが、結果的に研究成果を総括して成果を報告書として取りまとめる作業を完了させるには至らなかった。当初、目標としていた奈良盆地内における埴輪生産の系統識別、製品の流通状況、他地域との間の工人移動を介した交流の実態の解明については、結論的な成果が得られたものの、その副産物として、埴輪生産・流通の多元化に反して、古墳の形状・規模および円筒埴輪の段構成にみる階層的序列化が当該期にかえって広域的に緻密化するという分析成果が浮かび上がってきたためである。この所見は、当初予想していなかったものではあるが、むしろ古墳時代後期の政治・社会を考察する上では極めて重要な成果であり、むしろそれを含めた総括的な検討と評価に一定の時間を要すると判断した次第である。 以上から、研究の進捗状況としてはやや遅れていると自己評価するが、重要な知見が得られていることに加えて、成果の一部についてはすでに学会報告、論文等で公表、発信しているところであり、研究自体は確実に前進していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
上述の進捗状況を踏まえて、補助事業期間の延長を申請し、承認を得た。 次年度の作業としては、補足的な実見、調査を実施するとともに、これまでの記録、分析成果の整理を中心に作業を進め、年度内の前半には報告書の原案を作成したい。年度後半では、原稿の修正や図・表の作成を進め、年度内には5年間の全成果を取りまとめて報告書として刊行する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の総括して、本年度に成果報告書を取りまとめる予定であったが、当初、目標としていた課題に加えて、埴輪生産・流通の多元化が古墳の形状・規模および円筒埴輪の段構成による階層的序列表象の緻密化と表裏の関係で進展するという予想以上の分析成果が得られたため、本年度中の報告書の刊行を断念した。 次年度使用予定額の大部分は、今年度、刊行が叶わなかった報告書の編集・印刷・郵送費用分に相当する。このほか、若干の補足調査(国内旅行)を実施した上で、あらためて成果を総括し、報告書を刊行したい。
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