本研究は,「日本における野菜産地の消長を事例に,農的空間のレジリエンスの仕組みとその地域的条件を明らかにする」ものである。具体的には,「特定の農的空間が内的・外的インパクトに対するレジリエンスを有しながら,発展の方向性を維持しているのではないか」という仮説を,国の指定野菜産地を対象に検証を試みた。得られた結論は以下の通りである。 1)指定野菜産地制度開始時から2022年までの指定産地の地域的消長をみると,その立地は指定開始時の大都市圏・西南暖地への立地から北海道・東北及び各地方での成長を経て1980年代半ば過ぎにピークを迎え,2000年代以降の減少期に,北海道から東北,首都圏と中央高地・東海,西南暖地へと収斂した。 2)野菜産地の寿命は,指定解除産地の指定期間(最短:ほうれんそう16.6年,最長:たまねぎ25.4年)から概ね25年ほどであるものの,指定存続産地のそれは最短27.4年のねぎを除き,他の品目すべてで30年を(白菜・きゅうり・さといも・キャベツ・たまねぎの5品目で40年)を超えていた。また,重量作目と非重量作目の露地作(含,雨除け栽培)の存続産地の場合,いずれも存続率の低い作目ほど,長い存続年数を示したことから荒木(2006)の指摘したpolarizationの状況が継続していると解せられる。 3)その一方で,施設園芸作の場合,存続年数は各作目の中でトップクラスであり,露地作と異なって産地存続率も概して高い値を示した。産地としての持続性は,愛知県・茨城県・高知県の施設園芸産地の例から①産地の銘柄性,②担い手の存在,③高品質生産と高い技術力,④販売ルートの確立と消費者へのPR,⑤地域的機能組織の存在に左右され,とりわけ新技術の普及のように地域内で新たな試みを受容し発展させる仕組みがインパクトに対するレジリエンスを高めると言える。本年度はこの点を考察してまとめとした。
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