今年度は,第1に,地方圏中小製造業のイノベーションに留意した人材獲得戦略について,熊本県南部の農村地域に立地する機械系中小製造業2社の事例を分析した。当初は労働力指向型の立地であったが,生き残りのためにイノベーションに注力していた.人材獲得のために労働市場圏が広域化しており,それに対応した立地行動が観察された.加えて,人材獲得や知識・技術を獲得するために,農村地域の企業が地方中核都市の外部経済を活用していることも明らかになった.また,中小企業経営者間の相互交流が密接であり,産学官連携等の基盤となっている可能性があることが示唆された.工業雇用の減少を伴う空間的再編が全国レベルで進行する中にあって,特に雇用減少が顕著であった国土縁辺地域に立地する中小製造業が,イノベーションに対応した形で労働力の活用を進めていることは,工業雇用の維持の面からも注目され,他地域の事例もふまえた一般化が求められる. 上記の知見をふまえ,第2に,全国スケールでの工業雇用の動向を統計的に分析した。1990年代初期の工業空間構造は3大都市圏を中心とする4地帯構成として把握された.その後工業雇用の全般的減少に伴い,5地帯からなる空間構造への再編が生じた.このうち東海・北関東・甲信・北陸などへの工業雇用の相対的集中傾向が進み,輸送用機器,生産用機器の成長が寄与していた.対照的に,東京・大阪両大都市圏で工業雇用が激減した.国土縁辺地域でも工業の衰退傾向が認められ,とくに電気機器や繊維・衣服などの労働集約的業種の雇用減少が影響していた.2013年以降の景気回復期の工業雇用の地域的動向は,1990年代以後の長期的な趨勢と大きな違いはなかった.
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