本年度は、協力者の葉山がフィリピン南部での現地調査を行ったほか、祖田・生方・葉山がマレーシア・サラワク州での共同調査を2度行った。いずれも現地調査を中心とした方法で、これまで明らかにされてこなかった状況を把握することが可能になった。 フィリピンにおいては、貧困対策としてのアブラヤシ栽培への期待がかかっているものの、初期投資や土地確保の困難があり、またココヤシ栽培中心の生業形態の転換が難しく、小農の重要な生業となりえていない状況が明らかになってきた。政策的にも、輸出産品としてのココヤシとどのようにバランスをとってアブラヤシを補助していくべきかの方針が明瞭になっておらず、貧困解消のツールとしての意義は、現在までのところ、明確になっていない。 マレーシア・サラワク州での調査においては、従来のプランテーション優位の状況に対して、小農たちがアブラヤシ生産者団体を設立するといった新たな動きが見られたほか、国際市場を意識した認証制度の導入にも積極的に動いており、対プランテーションを意識した小農の自律性確保の諸戦略を見出すことができた。とくに、認証制度は、環境保全と労働者福祉を主眼に置いた新制度であり、小農がこれに翻弄されながらも、従来とは全く異なる生業として営農することを意識しつつあることは、大きな変化であると思われる。 昨年度までの、マレーシア、タイ、フィリピンでの調査経験から、これらの比較検討を行うことで、小農にとってのアブラヤシ栽培が、どのような可能性とリスクを持ち得るのかを検討する材料はおおよそ整ったと考えられる。これらをもとに、東南アジアの小農の展開可能性についての学会発表および論文執筆を準備中である。
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