研究課題/領域番号 |
16K03202
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
松尾 容孝 専修大学, 文学部, 教授 (20199764)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地域類型 / 就業機会 / 農林地 / 所蔵資料 / 世代交代 / 共有財産 / 関係性の空間 / weak tie |
研究実績の概要 |
終末期に位置する日本の村の地域類型を、経済、社会文化、環境の指標を用いて設定することが、今年度のテーマであった。既調査地のほか、石川県能登半島、千葉県北総台地(印旛郡、山武郡、香取郡)、神奈川県足柄上郡、岩手県北部を調査し、共有財産の比重、家屋や家産の規模・家々の関係、家産(農林地や所蔵資料)の管理、過疎化や高齢化などを指標にして次の7地域類型を確認した。 I 岩手県北部は、現在も農林業(畜産や林業)が基幹で、既存の構造が健在な地域 一方、本州の多くの村では農林漁業が大きく後退している。農林業に代わる就業機会の確保は自助努力による。農林漁業の後退した地域群の間で、世代交代によるムラ共有財産や家産の管理の変化状況に違いがあり、II~Vの類型に分かれる。II 共有財産管理を強固に残すけれども、家々の間でムラへの帰属度vs脱落度の乖離が進行する地域。帰属度の高い家にとって、共有財産管理による収入が生活の下支えになっている。III 脱落・退転の家々が多数を占める地域では、全層的崩壊が進行している。IV ムラ共有財産やイエ財産(家産)の管理の縮小・衰退が進行する一方で、歴史的な既存の地域よりも大きな規模の地域への再編が公的機関の支援によって進行している地域。新規入植した家のある場合とない場合がある。この違いは大きな意味をもたないと現時点では判断しているので、一括して同じ地域類型とみなす。V IVの地域群のうち、ツーリズムの振興により生活の糧を得た転入住民が多く、彼らが地域社会の意思決定に大きな比重を占めるに至っている地域 VI ムラ共有財産の比重は小さく、家産を管理して農林業経営を維持し、レジャー施設・倉庫・駐車場・住宅など非第一次産業の土地利用機会の拡大により旧来の構造が安定的に維持されている地域 VII 通勤就業の浸透による緩慢な都市化と第二種兼業ないし土地持ち非農家を主とする地域
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要に述べた7類型は、各地の村落調査を通じて得た結果である。類型の導出は定性的で、定量的な比較分析を行ったわけではない。類似する関心のイギリスの農村地理学者による現代農村の類型設定(Terry Marsden et al.1993, 2003)も定性的な導出であり、特に定性的考察が不適切とは思わないが、より明示的で地域相互が明瞭に区別される類型化を進めたい。 ムラ共有財産(部落有林野やムラの寺社)、家々からなるコミュニティ、イエ財産などを分類指標とした類型設定を模索したいが、検討が進んでいない。 本研究は、新たな地域の形成の調査と考察に大きなウェートを置いている。7類型の地域がそれぞれ今後いかに新たな安定構造にいたるのかを示すことが重要である。つまり、各地域内のさまざまな機関・組織・個人の活動を、どのような方法によって、どこまで何を調べれば、関係性の空間形成の考察へと収斂させることができるのか。 このテーマに関しては、これまでの研究史上、十分な研究量が蓄積されていないので、就業と日常生活における地域社会内外での関係網、活動日誌と行動空間、weak tieの形成機会、価値観や信念などのサンプル調査・データ化・比較考察などの手順で、各類型地域で調査を進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
I~VIの各類型地域に該当すると考える地域で、調査を進めていく。具体的には、次の地域で、ムラ共有財産(部落有林野やムラの寺社)、家々からなるコミュニティ、イエ財産(農林地や所蔵資料)、人口・世帯、農林業の調査、および就業と日常生活における地域社会内外での関係網、活動日誌と行動空間、weak tieの形成機会、価値観や信念などのサンプル調査・データ化・比較考察を行う。 I 岩手県北部。II 奈良県十津川村、天川村東部、川上村。III 奈良県野迫川村、天川村西部。IV 石川県能登半島、島根県山間部。V 岐阜県郡上市、高山市。VI 千葉県北総台地。 なお、VIの地域類型について、少し長い時間軸で得られた現時点までの成果を、2017年6月に研究集会で発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の時代は異なるがテーマに関連がある、2015年度に申請した勤務校での学内研究助成(単年度)が採択になったので、その予算の執行により、本研究と関連のあるテーマについての研究を行った。また、10月に本科学研究費計画で実施を予定した現地調査を、本学の記念行事の業務のため取りやめた。 これら2点のため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度には、今後の研究の推進方策において記したように、約10箇所の日本国内現地調査、および5月時点での成果を踏まえた発表を国際研究集会において行う。 これらの調査および発表と調査に要する資料代その他によって、今年度の使用額と今年度助成金をあわせた額を使用することになる。
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