研究課題/領域番号 |
16K03202
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
松尾 容孝 専修大学, 文学部, 教授 (20199764)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地域資源 / 開発 / 地場産業 / 林業 / 鉱山 / 牧野 / 史資料 / 山村 |
研究実績の概要 |
まず、4月に千葉県文書館資料を撮影し、旧幕府牧とその近代以後の停止・開発の進行を分析した。このうち周辺農村による牧の侵犯・内部化と駄馬・物資流通による関係網の形成について、7月に、「ソーシャルキャピタルと農村における開発の傾向」の研究集会(於トンガ王国)において発表した。開発が地域に与えた影響たとえば部落有林野の早期解体と個人有化による地域変化、昭和初期からの東京圏拡大に伴う村の生活様式の変化・解体について、研究を続けている。 第二に、日本有数の亜鉛鉱業地域岐阜県飛騨市神岡町は、近代初期の三井による全山購入直営操業、1986年の三井金属からの分離・独立、2001年の採掘停止とドラスティックな変化みせる。鉱山村落および神岡町中心集落と周辺地域の変容、主産業の喪失・変転と過疎化の進行による地域変化を分析している。 第三に、特別工業地区を設けて旧市街地からの事業所移転と他地域からの参入を促す工業振興策を実施している新潟県燕市は、金属雑貨の家内工業的地場産業地域から専業的機械金属製造業地域に変化している。まず産地再編・経済立地論・地域変化の概括的分析の成果を「産地型製造業地域の持続可能性および非産地型との関係-研究史の整理と燕を中心とした検討-」『専修大学人文科学研究所月報』290、2017として刊行した。 第四に、日本山村は1950年代後半以後現在まで過疎が進行している。山村の主産業である木材産業は、1980年の価格最高値以後、下落と消費不振が2012年まで続き、以後自給率の上昇と産業回復が徐々に進んでいる。現代日本の林業の再編と先進林業地域の現在の再編実態について成果のとりまとめを進めている。 ほかに、ムラに関連して、村絵図の種類・内容・作成時期が地域性に対応することを、「村絵図の種類・目的と地域性についての覚え書き」『専修人文論集』102、2018.3を刊行して示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
日本全国を対象にしてムラの衰退を判別するために、寺社の存立・統廃合を確認できる資料を入手・分析する予定であったが、神社庁、都道府県による資料提供が得られないため、個別事例調査に依存する比重が高まった。同じく、部落有林野についての資料を公有財産として開示請求により都道府県から入手することについても、これを公有財産として開示する県が少ない。このため、全国を総観する作業が進んでいない。 各地の産業・就業調査によって地域の再編=実質的なムラの衰退・消滅と新たな地域の形成を研究する点では、成果を刊行しているが、それ以外にも口頭発表にとどまっているもの、現地調査により資料を収集したがその整理分析をまだ進展できていないものがある。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、地域の動態・再編とくに現代の地域構造の特色に関する学説史を踏まえた考察、能登地域を主対象とする海運・漁撈活動による地域形成の長期的な歴史的過程・動態の調査成果、現代の林業再編の進行と地域主義や地域アイデンティティの役割と特色についての調査成果をとりまとめて、年度末までに研究成果を刊行する予定である。 地域の動態・再編とくに現代の地域構造の特色に関する学説史的検討については、5月中旬に開催される「ソーシャルキャピタルと農村における開発の傾向」の研究集会(於京都)において口頭発表する。現代の林業再編の進行と地域主義や地域アイデンティティの役割と特色については6月の研究集会で発表するとともに、1.2度補足の現地調査を行ったうえで、今年度前半に文章化を終えて、後期に成果を刊行する予定である。 能登の海運・漁撈活動による地域形成については、これまでの現地調査での収集資料を活用するとともにさらに現地調査を数度行って支流尾の収集や撮影も補足し、今年度末までに研究成果をとりまとめる予定である。 全国的なムラの衰退・消滅度の総観的検討について、全国的な分析は記述した理由のため困難であるので、神社誌および林野資料の資料提供に応じていただける県を対象にして分析する。 終末期に位置する日本の村の地域変化に関する類型として、経済、社会文化、環境を指標にして7地域類型の存在を一昨年度に設定した。昨年度の燕地域と林業地域での成果を踏まえてそれを修正し、かつ類型についての補足を行う。また、上に記した調査に取り組んだ後、今年度後期に1~2つの未検討の類型を対象に、典型地域の現地調査を行って成果を提示する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年8月と2018年1~3月に現地調査を複数回行う予定であったが、行わなかったために差額が生じた。この未調査分について、2018年度7月までに3度現地調査に出かける予定である。この調査の補足により、上記の今後の研究の推進方策に記した成果の一部を得る予定である。 2018年8~11月に能登の現地調査を集中的に行う。資料購入や資料撮影にも助成金を使用する予定であり、所蔵者に対する謝金を要する可能性が高い。上記及び能登の現地調査では、毎回ほぼレンタカーを借用する。また、2018年度には、寺社や部落有林野の資料収集調査のための機関等訪問調査を行う予定である。資料入手や資料撮影対象によって、謝金と作業補助に関する人件費が必要になる予定である。 成果の公表は口頭発表と雑誌への投稿によって行う予定であるが、データ整理のための機材・ソフトを既存のものから新しい機材・ソフトに買い換えることを考えて助成金の物品費を計上している。
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