本研究の目的は、グローバル・バリュー・チェーン(GVC)の一環である「スーパーマーケット革命論」を地域研究の立場から再検討することである。この「革命論」によれば、発展途上国の生産者はGVCに取り込まれるか否かで受益/非受益に二極化し、特に、スーパー側の要求基準である「GAP(Good Agricultural Practice)」を満たせない小規模農家はその網の目から漏れ落ちる、とされる。 スーパーの主要な取扱品は生鮮食品である。本研究では、そのうち果物、特にマンゴーを取り上げ、その生産・流通の実態とスーパーの台頭に伴う生産者の対応を考察した。マンゴーを対象にした理由は次の通りである。まず、野菜については、申請者はすでに2011-13年度科研費で研究しており、次のステップとして果物の研究が必要だと判断した。また、マンゴーの生産は多くの小規模農家によって担われている。さらに、マンゴーは近年輸出向け生産が拡大し、輸出に不可欠なGAP認証の取得が進んでいる。これは「革命論」が想定する非受益者の条件と合致する。 調査は、タイにおけるマンゴーの主要産地であるチエンマイ県およびチャチューンサオ県を中心に実施した。その結果、タイのマンゴー生産者は産地ごとに生産者組織をつくっているほか、全国組織である「タイマンゴー生産者協会」を設立し、小規模生産者であることの不利を克服しようとしていることが明らかになった。そうした組織化により、会員間で新技術の紹介や問題解決の情報交換を積極的に行っているほか、生産財の共同購入、農産物の共同出荷に力を入れ、取引条件の改善に尽力している。取引相手であるスーパーや輸出業者は、「革命論」の想定とは異なり、生産段階にまで介入できているわけではない。実際は、生産者と流通業者の間に互いが互いを必要とする、ある種の補完関係が成り立っている、と結論づけることができる。
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