研究課題/領域番号 |
16K03206
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
加茂 浩靖 日本福祉大学, 経済学部, 准教授 (90454412)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地方移住 / 就職支援 |
研究実績の概要 |
移住者の就業には地域差がともなうが、この地域差の実態や地域差の要因については十分に解明されていない。また自治体や民間による就職支援も地域差が大きく、地域によっては必要とされる支援が移住者に提供されていない可能性がある。このため2016年度研究では、都道府県を地域単位として、移住希望者に対する就職支援の全国的な地域差の解明を試みた。 この地域差を検討するため、本研究では大都市圏以外の39道県を対象に、移住希望者に対して実施する公的な就職支援制度を分析した。なお、大都市圏の都府県は、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県である。公的就職支援に注目したのは、移住先の実情に詳しくない者が、就業に関する情報を自ら得るのは難しく、公的機関の支援が重要な役割を果たしていると考えたからである。本研究では、厚生労働省、各道県担当部局での訪問聞き取り調査やウェブサイト等から研究資料を収集した。 分析結果は以下のとおりである。 公共職業安定所別に就職環境をみると、県庁所在都市が存在する地域では有効求人倍率が比較的高く、希望する職を得やすい状況にある。これに対して県庁所在都市以外の地域、とくに大都市圏から遠距離にある地域では、求人倍率が低いうえに賃金水準が低く、移住希望者の就職が容易でないことが判明した。 また、39道県の移住希望者に対する就職支援を分析した結果、職業紹介の方法に道県間で違いが認められた。25道県では、企業から提出された求人票を移住希望者が閲覧し、希望求人があれば自身で申し込む求人紹介方式が採られていた。残りの14県では、求人紹介方式に加えて、移住希望者が持つ技能をもとに、担当機関が適職を探して紹介する無料職業紹介方式が採用されていた。後者の1つである長崎県では、無料職業紹介事業による就職支援が実施され、2016年度(2月1日まで)に30人の就職が決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度の研究計画では、第1に、定量的データの分析を通じた全国スケールでの移住の地域差の把握、第2に、行政資料を用いた都道府県あるいは市区町村による就職支援の実態把握、第3に、統計資料および関係機関での聞き取り調査にもとづく地方移住の地域差の検討、を実施する予定であった。これらの研究資料の収集、資料の分析、また分析結果の考察をおおむね計画通りに実施した。ただし、市区町村による就職支援に関する資料は収集しなかった。なぜなら、移住者の就職支援に関しては、市区町村ではなく都道府県が中心となって実施していることが判明したからである。このため、就職支援の実態把握については、都道府県を分析の地域単位として研究を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2016年度研究の地方移住者に対する就職支援の全国的な状況を踏まえ、今後は、個別地域での実態調査をもとに事例研究を進める。2017年度には、地域労働市場の状況が相対的に悪く就職が困難な地域を事例として、地方公共団体、NPO法人等による就職支援の内容および移住者の職業経歴を分析し、この地域への移住の実態および移住の要因を考察する。2018年度には、地域労働市場の状況が良好な地域を事例として、移住者受け入れ実績のある事業所での聞き取り調査等にもとづいて、事業所あるいは受け入れ地域の役割について考察する。これらの研究結果をもとに、地方移住と地域労働市場との関係、移住を進めるにあたっての地域の課題等を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、収集したデータの入力作業、グラフ化・地図化作業にかかる謝金を、研究補助者2人で各20日分を予定していたが、これが不要になった。なぜなら、収集するデータは都道府県あるいは市区町村出所のものを予定していたが、移住者の就職支援に関しては都道府県主動で実施されていることが判明したため、データ収集先を都道府県のみに変更したからである。これにより、研究補助者が担当する予定であった約1,500にも及ぶ全国市区町村のデータ入力作業等が不要になった。なお、都道府県のデータ入力作業については研究代表者が実施した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の使用計画としては、事例地域での実態調査に掛かる旅費を増額する計画である。調査日程を増やすことで、より多くのサンプルデータを収集することが可能になり、信頼度の高い研究成果を得ることが期待できる。
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