2016年度研究で明らかになった移住者向け就職支援の全国的な状況を踏まえ、2018年度に、個別地域における移住者雇用の実態把握を進めた。東京圏からの距離が近く雇用機会が豊富な地域では比較的多くの移住者が雇用されている。地方への円滑な移住を促進するためには、こうした移住者の雇用の実態を明らかにする研究が必要である。しかしながら、事業所がどのような求人活動をしているのか、またどのような属性の移住者がいかなる労働条件で雇用されているのかについては研究が進んでいない。本研究では、長野県須坂市とその周辺地域を事例として、事業所の求人活動、当地域で就業する移住者の労働条件や就職支援に関するデータ分析をもとに、移住が生じる要因を考察した。 本研究では、須坂市役所、須坂地域に立地する25事業所を対象に訪問聞き取り調査を実施した。具体的な調査内容は、募集方法、雇用条件、採用実績、また住宅などの生活支援等である。分析結果は以下のとおりである。 須坂地域における移住者雇用の特徴の1つは、「須坂市移住者受入れ協力企業」事業の存在である。これは、須坂市政策推進課が地元企業に協力を依頼して、移住希望者と地元企業との就職のマッチングを円滑に進めるために行う事業である。当地域での就職を希望する移住希望者から相談があれば、政策推進課は協力企業を紹介しながら就職相談や現地案内、住宅相談等により一元的に対処する。大都市圏での求人活動が難しい地元の中小企業にとっては、人材の確保の機会の1つとしてこの事業が捉えられている。2014年度にこの事業が開始されて以降2019年1月までに、25事業所のうち4事業所がこの事業を通じて従業者を採用した。しかしながら、労働条件の不一致等を理由に協力企業での移住希望者の就職が決まらなかった事例が全体の約3分の2に及ぶ。このため、この事業をいかに効率的に運営するのかが課題である。
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