研究課題/領域番号 |
16K03208
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研究機関 | 奈良大学 |
研究代表者 |
三木 理史 奈良大学, 文学部, 教授 (60239209)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 南満洲鉄道 / 「満洲国」 / 農産物 / 大豆 / 小麦 / 満洲産業開発五箇年計画 / 鉱工業 / 貨物輸送 |
研究実績の概要 |
本年度の直接的成果は三木理史「『満洲国』期の農産物鉄道輸送―満鉄の路線拡大との関わりに注目して―」(歴史地理学58-3,2016年)1-23頁である。この論文の目的は,「満洲国」期の1930~40年代における南満洲鉄道(以下,満鉄)の輸送の変化を,特に農産物に着目して明らかにしたもので、その論点を日本支配の空間的拡大と「満洲国」の成立の関係の解明に置いた。1930年代の満鉄の鉄道事業は不振部門を補填していたが,その内実は社線(1931年以前の満鉄線)の輸送が低迷し,成長は国線(同国が旧中国系やソ連から編入した委託線)に依存していた。しかし,1930年代前半期には社線と国線の輸送量は大きな差を伴って前者が多く,後半期に北満からの発送貨物増加によって国線輸送量が大幅に伸長した。つぎに満鉄は,旧中国系鉄道継承各線の満洲事変時の修復の後に,奉天ではそれら路線相互間の連絡を分断した。また,満鉄線との連絡強化に向けて改変し,運賃・料金や時刻も社線を含めて統一した。「満洲国」成立を機に満鉄の貨物輸送は,農産物と石炭の特化状態から他の鉱産物や木材などを含めて多様化した。特にそれまで農産物輸送は大豆に依存してきたが,その退潮が顕在化したことが伸び悩みの要因として明らかとなった。 なお、同論文の成稿に先立ち、その内容は「『満洲国』期の農産物鉄道輸―空間支配の変化に関連して―」として、第59回歴史地理学会大会(自由論題報告 於・城西大学、2016年6月4日)において口頭発表を行い討論を経た。また現地調査としては次年度の研究を見越して、2016年8月21~27日に旧満洲炭礦株式会社炭鉱の現地調査を中華人民共和国遼寧省および吉林省で実施することができた。さらに『民國時期鐵路史料彙編』(全20巻)を購入して復刻史料を揃えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は「満洲国」期の農産物流通に関する調査と研究に重点を置くつもりであったが、「南満洲鉄道の輸送に関する歴史地理学的研究」(研究課題/領域番号:25370927)において準備作業を進めることができたためスムーズに学会発表および論文発表まで行うことができ、研究を約1年分前倒しすることになった。その結果、実際の調査では当初2年度目に実施する予定であった鉱工業に関わる研究に着手することができ、現地調査を終えると同時に関係資料も収集することができた。その成果の一部は既に「『満洲国』期の鉱工業と満鉄貨物輸送」として2017年3月の社会経済史研究会で口頭発表することができた。その内容はさらに同年7月の日本植民地研究会大会で口頭発表ののちに論文として投稿する予定である。 さらに3年度目の課題である満洲労工輸送に関わる資料収集に着手し、本年度中にその内容をとりまとめると同時に、2018年春には口頭発表を行い、さらに論文として投稿する予定である。なお、現在も中国国内における史料閲覧の目処は得られていないが、それを代替するマイクロフィルム史料(東洋文庫所蔵)や、米国議会図書館所蔵資料(国立国会図書館所蔵)などが見出され、さらに中国での資料復刻も盛んになってきていることから当面調査上での問題は生じないものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず1930~40年代の第一次満洲産業開発五箇年計画との関係のもとに、鉱工業生産とそれに関わる満鉄の輸送に関する研究を論文として発表することが2017年度の課題となる。そのうえで満洲事変後漢人労働者の移入制限を経て、上記五箇年計画の労働力として注目された満洲労工輸送に関する研究の口頭発表および論文発表へとつなげてゆく。 現在のところ約1年前倒しで研究が進行しているため、その期間を活用して「満洲国」期に関する特論的テーマを1つ新たに設定して取り組む予定である。その内容は1930年代から徐々に増加した満洲における都市近郊輸送を満鉄の鉄道技術との関係で明らかにすることを考えている。具体的には内地の国有鉄道でも1930年代から徐々に増加した小単位輸送機関が、大陸を舞台とした満鉄においてどのように受容され、どのような技術開発が行われ、中華民国においてほとんど認められなかった動車が開発されたのかに焦点を当てる。それによって日本で培われた都市近郊輸送の技術が、どのように大陸へと移植されたのかを明らかにできるものと考えている。 さらにその後は満鉄の通時的な鉄道経営の変化を長期的な視点から明らかにし、満鉄鉄道輸送の研究の集成につなげてゆきたい。
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