研究課題/領域番号 |
16K03213
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
吉田 栄人 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (10240285)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 先住民文学 / 多文化主義 / マヤ |
研究実績の概要 |
メキシコのマヤ先住民による文学活動がいかなる理念と目的の下で実践されているのかを明らかにしようとする本研究において、昨年度はいわゆる先住民の文学活動をメキシコにおける先住民表象の歴史の中に位置づける作業を行ったが、本年度は文献資料に依拠したその作業を継続しつつ、現地において文学的な活動に関わる人々への聞き取り調査を実施した。 文学作品の執筆は個人によって行われるという意味では、文学活動は四六時中どこかで行われることになるが、先住民の文学活動はまだ普及期にあり、先住民に文学作品の執筆を促すための講演会や執筆方法を教えるためのワークショップが行われており、本研究ではそうした普及活動の場を中心に、聞き取り調査を行った。 先住民の文学活動はメキシコ国内における多文化主義イデオロギーの一つの実践として行われているものであるため、先住民の社会や文化に関する情報を先住民以外の人々あるいは社会に対してどのように発信・発言していくかという社会的な側面を持っている。それは先住民による一方的な行為ではなく、常に他者を意識して双方向的な関係性の中で行われている。その他者の中にはメキシコ国外も含まれる。その意味で国際社会が先住民文学をどのように評価しているかは先住民にとっても極めて重要な関心事である。本年度は、ソル・ケー・モオの小説に加えて、ホルヘ・ミゲル・ココム・ペッチの小説『グレゴリオ爺さんの教え』(El abuelo Gregorio, un sabio maya. 2014年)を翻訳した。 ホルヘ・ミゲル・ココム・ペッチの小説は作家自身の幼少時の経験に基づいたものであり、彼が暮らした世界あるいは自然を実際に訪れることが重要であると考えられるので、今年度の現地調査では作品の中で言及される場所を作家の実弟に案内してもらった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献資料を用いた研究と、メキシコ国内において先住民文学に携わる人々に対する聞き取り調査は着実に進んでいる。 ただ、二年次以降の研究課題としていた国外における先住民作家たちの活動に関しては、予定していたサン・フランシスコでのセミナーが中止されたことに加えて、研究費が不足気味であるため、実施できていない。また、先住民文学作品の日本における翻訳出版に関しては、出版してもらえる会社を探してはいるが、出版不況を理由に多額の資金の拠出を求められることが多く、難航している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、先住民の文学活動がメキシコ国内における多文化主義の下でどのように実践されているかを明らかにするだけでは、単なるアカデミズムの内部での学術研究に終わってしまう。むしろ、本研究も多文化主義の一つの実践として、先住民文学の活性化と先住民文学に対する世界の読者による評価を上げることに貢献することこそ、本研究の意義があると私は考える。先住民作家を日本に招聘し、日本の読者と交流してもらうことを研究計画の一部として予定しているので、作品の日本語への翻訳出版をなんとしても実現させたい。
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