研究実績の概要 |
多文化主義が先住民の文学的実践に与える影響について考察するに当たって、本研究では、先住民が執筆した文学作品そのもののに関して研究するだけでなく、先住民作家たちが先住民文学についてどのような考えを持っているのかを把握するために彼らの発言にも注目している。平成30年度は彼らに直接インタビューする機会は得られなかったが、facebookなどのソーシャルメディアを通じて、先住民作家たちの言動や先住民文学に関する情報をウォッチした。先住民作家たちをゲストに招いたラジオ番組など、先住民文学に関する現地の人々の考えを聞くことのできるものはいくつも存在した。 文学作品そのものに関する研究では、本年度は、ユカタン・マヤ現代文学において異彩を放っている女性作家ソル・ケー・モオの作品の持つ現代性を、日本文学における「ふるさと」論を手掛かりとして検討した。その研究の成果は、11月15日・16日にイタリアのベネチア大学で開催されたシンポジウム「Furusato: ‘Home’ At the Nexus of Politics, History, Art, Society, and Self」において "Mayab, a Concept of Home of the Yucatecan Mayans in Their Modern Literature" と題して報告すると同時に、「現代マヤ文学の誕生―原風景としての伝統的なマヤ村の発見―」と題する論文を『国際文化研究科論集』(第26号)に発表した。 翻訳作業に関してはソル・ケー・モオの中編小説『穢れなき日』に短編小説集の『タビタ他、マヤの物語』と『酒は他の人の心をも壊す』を加えたアンソロジーを『穢れなき太陽』と題して、水声社から出版してもらうことができた。さらに、ソル・ケー・モオの『太鼓の響き』、イサアク・エサウ・カリージョの『夜の舞(La danza de la noche)』、アナ・パトリアシア・マルティネス・フチンの『解毒草(Contrayerba)』翻訳も終了し、現在出版のための助成金を申請中である。
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