研究課題/領域番号 |
16K03214
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
徳丸 亜木 筑波大学, 人文社会系, 教授 (90241752)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 死者霊 / 墓制と葬送儀礼 / 内面化 / 「森神」 / 歴史認識 / 先祖 / 屋敷神 / 伝承主体 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、日本国内の内、東日本における葬送墓制習俗の調査を通じて死者霊祭祀にまつわる伝承の内面化を考察するとともに、西日本の調査を通じて歴史伝説などにあらわれる観念上の死者霊祭祀にまつわる伝承の内面化について、本務に影響を与えない夏期休業期間中の現地調査を予定していた。しかしながら、本科研課題は、平成28年度10月からの採択となったため、科研に関わる調査・研究期間は平成28年10月から平成29年3月までの期間となった。そのため、研究実施計画において予定していた夏期休業期間中の現地調査については十分な進捗を得ることは不可能となったため、おなじく研究実施計画で予定していた、過去の調査資料のデータベース化に力点を置くこととし、従来の調査において、研究代表者が蓄積し死者霊祭祀に関わる民俗調査データの整理分析を主として進めることとした。対象としたのは以下の民俗調査に関わる録音データである。 1、家々の死者を火葬後、その歯骨を女性達が納める山形県庄内地方のモリノヤマ習俗に関わる現地調査による録音資料。本事例は、同地域の火葬習俗と連続するものであるため、地域の葬送習俗ならびに墓制について分析し、そこにおける骨掛け習俗(火葬に附した遺骨を、一定期間、墓前の植樹などに掛けておく習俗)との関連から考察した。 2、山口県下関市において15世紀当時に起こったとされる落城伝説を背景とした死者霊祭祀に関する撮影資料ならびに、現地調査による録音資料の整理。 1については、地域の葬送儀礼の体系の中において、火葬という死者の遺体処理方法と歯骨を通じた霊魂としての祭祀が、モリノヤマという聖地信仰を通して如何に融合しているかについて分析を行った。2については、地域の歴史伝説上の死者霊が人々の生活体験の中に如何に認識され、供養という儀礼実修へと連続してゆくのかを、地域の生活者の語りから考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
年度途中からの採択ではあったが、従来からの調査資料について整理・分析を行い、その資料に基づいて、考察を進めることができた。特に、落城伝説に関わる屋敷神・「森神」に纏わる戦乱の死者霊祭祀とその伝承の内面化については、以下の点を指摘した。1.落城伝説に関わる屋敷神・「森神」に纏わる伝承は、同時代的に生きる人々の様々な生活体験やその解釈をも含み込んだ多声的なものであり、そこには複数の人々による相互に関連を持った体験談も含まれること、2.語り手の自己経験や主体的な伝承的知識を核として、その内面で、あるいは他者との会話の中で統合されて紡がれてゆく傾向が見られること、3.屋敷地に滞留すると認識されている死者霊が、現在の様々な災厄を引き起こしているとする理解は、現在の時間を、過去の時間へと結び付け、内面化しそれを新たな物語として主体的に再構成して行く行為でもあること、4.様々な機会に伝承者の内面において内省的な統合と物語として屋敷神・「森神」に纏わる伝承の再編が行われ、これは、他者との日常的な会話や行動的な行為の場、あるいは、何らかの生活史上の事件が生じた際の宗教的職能者への相談、さらには、民俗調査における聞き書きという場においても繰り返し行われること、5.それぞれの場においては、その場のコンテクストの影響や、相手との解釈共同行為の影響を受けつつ統合と物語としての再構成が行われ、語りとして表現され、その際には解釈共同行為のベースとなる解釈枠のすり合わせが行われ共有されること、6.屋敷神や「森神」に纏わる伝承は、伝承主体がその生活史上帰属してきた社会の歴史・社会・政治的状況をコンテクストの一部とし、自己・他者の生活体験を統合・物語化する過程を経た、その心意的世界の表現でもあると言えること。これらの点について分析を行い、業績として公にした。以上から、おおむね順調に進展しているものと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、平成28年度に実施できなかった西日本での現地調査、ならびにさらなる補充調査が必要な地域において、現地調査を実施する。 熊本県坂本村の西南戦争の場ともなった集落において、戦乱死者への供養や祭祀、ならびに伝承の再構成過程と伝承主体における内面化のありかたについて考察を加える。また、南西諸島における洗骨改葬習俗の調査資料の整理と与論島を中心とした現地調査を通じて、先祖の範疇にある死者霊に纏わる伝承の内面化を考察する。さらに、韓国全羅南道青山島の複葬制である草墳の構築過程と葬送儀礼における死者霊認識と伝承の内面化についても検討を加え、南西諸島の洗骨改葬におけるそれとの比較検討を行う。また、近年、与論島においては火葬受容により、遺骨や死者霊に対する儀礼や認識も変容しており、その分析を通じて、伝承の内面化の現代的位相について検討を行う。 夏期休業期間中など、本務に影響がない範囲で、現地調査を行うとともに、従来の調査で得られたデータの内、特に録音資料について、その筆耕を進め、今後の分析の基礎資料となすためのデータベース化を進める。 また、研究成果の一部を学会発表あるいは、学会誌、大学紀要への投稿により公開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本科研課題は、平成28年度4月採択を前提として、研究代表者の本務に影響を与えない夏期休業期間中に旅費を伴う現地調査を複数回行うことを予定し、申請を行っていた。しかしながら、10月からの採択となったため、科研に関わる調査・研究期間は平成28年10月から、平成29年3月までの期間となった。そのため、研究実施計画において予定していた夏期休業期間中の現地調査については十分な進捗を得ることは不可能となったため、おなじく研究実施計画で予定していた、過去の調査資料のデータベース化に力点を置くこととし、従来の調査において、研究代表者が蓄積し死者霊祭祀に関わる民俗調査データの整理分析を主として進めることとした。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度から平成29年度に繰り越した次年度使用額については、平成28年度に実施出来なかった現地調査を実施するための旅費として使用する計画である。具体的には、前年度十分な調査が出来なかった、西日本地域(山口県や熊本県において死者霊祭祀の伝承が現在でも濃厚に認められる集落)、洗骨改葬をかつて行っていた南西諸島などの地域において、民俗学方法論に基づく調査を実施する予定である。また、繰り越し経費の一部は、研究代表者が従来調査した死者霊祭祀に関わる民俗調査データの内、アナログ録音資料とフィルム写真、ならびにテープメディアによる映像記録資料のデジタルデーター化とデータベース化に必要な経費として使用する予定である。
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