本科研は、死者霊祭祀の伝承や観念が如何に継承され、再構築され、創造されているかについて、申請者が蓄積した民俗調査資料と、新たに実施した実態調査、ならびに文書資料等を「内面化」の概念を用いて考察することにより、それが現代の地域社会に生きる人々に果たす意味を検討し、民俗学・人類学・社会学研究に資する事を目的とした。死者霊祭祀の伝承を伴う民俗信仰の神々における伝承の再構成過程や、そこに示される時間認識や心意的世界を具体的な事象を持って考察した。また、死者霊祭祀に深く関わる寺院の歴史的展開状況について史資料の計量的分析を実施した。さらに、内面化の概念について理論的検討を進め、顕在化の概念を提示し、隠れキリシタンやかくれ念仏などの研究者との連携を進めた。研究成果はいずれも報告書・論文として発表・発表予定である。また、申請者が長期にわたって調査収集した本土・南西諸島・韓国での調査資料のデジタルアーカイブズ化を進め、研究期間中の調査資料と対照し、民俗事象の経年的変化と内面化の状況についても検討した。 本年度は、下関市大河内集落中地区と同市川棚地区おいて森祭りの調査を実施し祭場や儀礼の変化について分析を加えた。熊本県坂本村では、開拓始祖伝承と関わる森神の現況調査を実施した。最終年度の研究統括としては、研究発表を3度実施した。「かくれ、あらわす―民俗信仰における内面化と顕在化―」(2019年7月9日神奈川大学)では、民俗信仰における内面化と顕在化の概念について3名の登壇者とともに検討を加えた。「現代の祭礼行事における内面化と顕在化」(2019年10月26日華東師範大学(上海))においては、祭礼行事の分析から内面化と顕在化の概念を検討した。また、「変革の記憶と伝承としての継承」(2019年11月23日、筑波大学)では、経験の物語化とそこに示される時間認識や歴史認識、世界観について検討を加えた。
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