本研究は道教系寺廟での宗教実践で行われている父祖の地にある寺廟である祖廟への進香(神像を伴った信奉者による一連の参拝行列と宗教儀礼)に着目し、その行為を神と人との交歓と位置づけ、超越的な力の更新、スペクタクル性、トランスナショナルな性質などについて明らかにすることを目的とする。そのことによって、多くの華人がすでに移民して第4世代や第5世代となっている現在、シンガポールという国民国家の枠組みを超えて、脱領域化したフィクションとしての祖国に対して進香というトランスナショナルな関心が、儀礼や宗教実践のなかでどのように表象されるのか明らかにし、それを踏まえて宗教を通した国家と個人との関係を明らかにすることである。 マレーシアの兄弟廟への進香の活動に関する成果は2018年に日本文化人類学会研究大会において発表した。また中国福建省の祖廟への進香活動についての調査研究に関しての成果は2019年3月にシンガポール国立大学アジア研究所において開催された国際ワークショップ “Chinese Temple in Southeast Asia”において発表した。寺廟に関するさまざまなディシプリンの専門家が集まった2日間に渡るワークショップで発表し、トランスナショナルな活動に関する祖廟側の視点や人とモノの流れに関して有意義な意見交換をすることができた。また2019年7月には善行を積むことをめぐる議論と解釈に関して、Association for Asian Studies in Asia (Bangkok)においてパネリストの一人として発表した。霊媒を中心とした諸般の宗教活動それ自体が東南アジアの他の地域での活動と並んで信奉者が拡大しつつあることも議論の一つのテーマとなった。また宗教活動と再分配に関して、2020年5月日本文化人類学会研究大会で発表した。
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