研究課題/領域番号 |
16K03223
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
谷部 真吾 山口大学, 人文学部, 准教授 (80513746)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 祭礼 / 祭り / 高度経済成長期 / 地域社会 |
研究実績の概要 |
平成30年度は、5月14日~16日に、富山県高岡市で行われた伏木曳山祭の参与観察を行い、当該祭礼が現在「穏やかに」運営されていることを確認した。また、各祭礼が脱「暴力」化していった過程を明らかにするために、8月20日~22日には静岡県周智郡森町で毎年11月に行なわれる森の祭りに関する聞き取り調査を、9月4日~9月9日は伏木曳山祭に関する新聞記事収集を実施した。これによって、これらの祭礼が高度経済成長期に変容していったプロセスを具体的に把握することができた。さらに、本研究の事例を補足するために、静岡県掛川市横須賀で行われている三熊野神社大祭の参与観察を4月7日~8日に実施した。その結果、この祭りも昭和30年代はけんかが絶えなかったものの、徐々に「穏やかな」祭りへと変貌していったという語りを、地元の人々から得ることができた。 他方、戦後の日本の社会的・文化的状況や、その当時の地域社会の実態を理解するために、関連文献の収集・精読を行った。この作業を通して、各地のけんか祭りが似たような時期に脱「暴力」化していった理由を分析する際に必要となる、基礎知識を獲得することができた。 加えて、最新の研究動向を把握するために、10月13日~14日に開催された日本民俗学会第70回年会に参加した。その際、研究発表も行い(発表タイトル:「『競技化』概念の可能性 ―森の祭りと伏木曳山祭を事例として―」)、多くの研究者より有益な指摘を受けた。なお、本発表は、現在祭礼研究を精力的に進めている江戸川大学の阿南透教授や奈良女子大学の内田忠賢教授、長野大学の中里亮平講師、成城大学大学院の菊田祥子氏らとのグループ発表の1つとして行われた(グループ発表タイトル:「都市祭礼における『競技化』の民俗学的研究」)。この他、阿南教授が中心となって実施している研究会にも参加した(6月17日、7月29日、10月12日)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究で事例として取り上げる3つの祭礼(森の祭り、伏木曳山祭、兵庫県尼崎市の築地だんじり祭り)において、森の祭りならびに伏木曳山祭に関しては、聞き取り調査、新聞記事の収集ともに順調に進んでいる。このため、両祭礼が高度経済成長期に警察やマス・メディアによってどのように批判され、その結果、いかなる影響が見られたのかについて、かなりの程度、明らかになってきたと考えている。さらに、文献資料の精読を通して、戦後の日本社会全体の風潮や、同時期の地域社会の状況に関する知識を深めることができた。 他方、築地だんじり祭りに関しては、調査が大きく遅れている。聞き取り調査については、ある程度順調であるが、新聞記事の収集が進んでいないため、厚みのある分析ができずにいる。今後は、この点を意識して、調査を進めていきたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度も、引き続き新聞記事の収集に力点をおきたい。とりわけ、築地だんじり祭りに関する新聞記事を、できる限り集める必要がある。同時に、聞き取り調査も実施することで、当該祭礼が脱「暴力」化していった過程を立体的に明らかにしていきたい。また、戦後日本の社会的・文化的状況や、その当時の地域社会の実態を理解するための関連文献の精読に関しても、予定通り実施するつもりである。それによって、本研究を単なる事例分析に留めるのではなく、理論化・抽象化を図ることで、日本の近現代社会の特徴について他の学問分野と議論できるようにしたい。 令和元年度は本研究の最終年度にあたるため、秋ごろまでに、これまでの研究成果をまとめてみたいと考えている。できれば、その内容を、10月に筑波大学で開かれる日本民俗学会第71回年会にて報告したい。また、令和元年も各種研究会に積極的に参加することで、自らの考えをまとめると同時に、新たな知識の獲得にも励むつもりである。それによって、今後の祭礼研究に資する、斬新な切り口を模索したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成30年度の研究経費に関して残額が発生したが、これは秋以降、校務が重なったことにより、思うように現地調査に行くことができなかったことが影響していると考えている。 (使用計画) 平成30度の残額分は、基本的に旅費として使用する予定である。令和元年度は、特に築地だんじり祭りに関する新聞記事の収集に力を入れる予定でいるが、この作業には時間がかかる。このため現地での滞在日数を増やしたいと考えている。また、令和元年度も各種研究会への出席回数を増やし、秋に予定している日本民俗学会での口頭発表に備えたい。その他、消耗品費等に関しては、予定通り支出するつもりである。
|