令和元年度(平成31年度)は、事例とした3つの祭り(富山県高岡市の伏木曳山祭、兵庫県尼崎市の築地だんじり祭り、静岡県周智郡森町の森の祭り)の参与観察を行い、これら3つの「けんか祭り」が現在「穏やか」に運営されている要因を探った。また、本年度はとりわけ伏木曳山祭に関する新聞記事の収集に注力し、この祭りが高度経済成長期に脱「暴力」化していった過程を検討した。その成果の一部を、「高度成長期における祭礼の変容 ―富山県高岡市の伏木曳山祭を事例として―」(和崎春日(編)、『響き合うフィールド 躍動する世界』、刀水書房、pp.23-40、2020年3月刊行)にまとめた。さらに、本研究の事例を補足するために、静岡県磐田市で行われている見付天神裸祭に関する聞き取り調査を行った。この祭りでは、しきたりに違反した者(主に見物人)への荒々しい制裁が頻発していたが、1960年(昭和35)に発生した事件を契機に、急速に「穏やか」な祭りへと変容していったことがわかった。 以上からすると、各事例とも、似たような時期に似たような変化を経験していたことが理解できる。このような現象をどう解釈するべきかについての手がかりを得るために、東北大学で開催された日本文化人類学会第53回研究大会に出席し、発表者や他の出席者たちと意見交換をした。加えて、慶應義塾大学三田図書館や東京都立中央図書館にて文献収集を行い、近代化と祭りの変容を扱った論考や、近代化とスポーツの誕生を論じた文献に目を通した。それにより、高度経済成長期に祭りの「暴力」性を批判する風潮が高まった理由として、戦後の荒廃から立ち直り国際復帰を果たしたことで、これまでと違う「新たな時代になった」という認識が広まったこと、さらにその認識が戦前から続く「日本的なるもの」への忌避感を生み出したこと、などが関係しているのではないかと考えるに至った。
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