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2016 年度 実施状況報告書

革命の子供たちが親になるとき:スペインにおけるキューバ人の子育ての人類学的研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K03227
研究機関首都大学東京

研究代表者

田沼 幸子  首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (00437310)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード革命 / 教育 / 子育て / グローバリズム / ダブルバインド / 新自由主義 / ネオリベラリズム
研究実績の概要

労働による自己実現と社会への貢献という革命精神を内面化したキューバの「革命の子供たち」にとって、これと矛盾した政府が独占する市場経済導入がもたらすダブルバインド的状況は耐えがたく、多くが国外へ逃れた。そうした彼らが、スペインのグローバル・シティと言えるバルセロナで親になるという経験において直面する希望と現実との葛藤と交渉のあり方をとらえることによって、グローバリズムによって広がる格差の固定化を超え、移民や低所得者層が希望を持ち得るオルタナティブな社会の姿を探る。

2016年、7-8月の一ヶ月間、バルセロナで応募者が撮影・録音を伴うインタビューを行った。2015年夏にすでに調査・録画した被調査者に対しては、編集した映像を本人に見せ、それについての意見を求めた。海外共同研究者と調査内容に関する意見交換を行い、今後の分析と調査内容の検討に活かした。2017年3-4月の一週間、キューバで調査を行った。撮影した在スペインキューバ人の親・兄弟らに面会し、スペインでの子育ての様子とインタビューの内容を本人達の許可をとったうえで見せた。これまでメールの文面、写真、電話などでしか知りえなかった外国での自分の子供と、その孫の様子を動画で見ることによって、様々な思いが溢れた。スペイン在住者の聞き取りでは出てこなかったライフヒストリーのエピソードを知ることができた。キューバ在住者が、現在スペインに住むキューバ人らの子供時代と比べて、彼らの子供の生活がどのように見えるかを聞き取り、革命政府下の教育と子育ての詳細を知ることができた。許可がとれた人々を撮影したので、翌年度の調査に活用したい。

2013年に予備調査を始めて以来、得たデータと分析を日本文化人類学会研究大会で発表する予定である。応募者の調査対象地域を超えた人類学者らとも意見交換を行う。その結果を踏まえた論文を学術誌に投稿する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

2013年、2015年からバルセロナでインタビューしてきた人々を中心に撮影・聞き取りを行った。独身者が結婚、パートナーのいる人が出産、第二子が生まれるなど、年を追うごとに状況も変化・進展し、彼らのホスト国での生活もより根付いたものになってきている。とはいえ、経済危機の影響で、高学歴・資格保有者であっても希望する職業に就けなかったり、就いたとしても十分な収入を得られるとは限らない。こうしたなかでも、他の多くのキューバ人がしたように、より高額の収入をえる可能性のある米国に移住するのではなく、スペイン、特にバルセロナにとどまる人々があげる理由として、(1)公共交通機関があり、近所の人との関わりがあったり、海が近いなど、街や人のあり方が好ましい、(2)教育と医療への安心感(3)言葉が通じ、外見上もあまり違いがないため、疎外感があまりないことが挙げられる。一方で不満は(1)カタルーニャ語の推進が以前よりも強化され、教育と就職に必須となっていること(2)カタルーニャ独立の機運(3)低収入と不安定な身分、である。
こうした状況は、経済の自由を国家が後押しするネオリベラリズムの推進によって生まれていると言える。ネオリベラリズムは、こうした状況に合う主体の形成を教育を通じて育成する。スペインの教育や就業の場においても、個々人の「心理」を問題解決の糸口とする説明が一般化している。インタビュイーはこの概念を知らず、問題の背景は何かを筋道立てて説明できず、不満は断片的なものになる。一方で、キューバ本国の家族の調査でも明らかになったように、キューバでは、問題を個々の心理に求めるのではなく、社会や国の問題として捉える。こうした傾向から、在西キューバ人は、困難な状況に合っても自己を責めることなく、状況に対峙する構えがあるため、ほかの移民より順応しているように見えることがわかった。

今後の研究の推進方策

2017年度は、これまでのインタビューへの聞き取り及び撮影を暫定的に映像作品にまとめ、当事者にみせ、現在の状況や考えとの違いについて改めて問う。研究協力者にも視聴してもらい、現地の状況を踏まえた分析や提言を受け、最終的な作品にまとめる目処をつける。同作を観ることによって、日本に住む者にもスペインあるいはキューバに住む人にも、問題を個人の心理や自己責任とせず、社会にあるとみて、その変革を求めることが逆に、個々人の自己意識と可能性を高めることを示したい。また、アカデミアでは当たり前のように用いられ、知られるネオリベラリズムという語について知らない人が、自らの状況に大いに関係していることを理解できるような説明も含めたい。

研究協力者と英語で論文を共同投稿し、本研究の知見を国外の研究コミュニティと共有し、発展に貢献したい。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2017 2016 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)

  • [国際共同研究] バルセロナ自治大学(スペイン)

    • 国名
      スペイン
    • 外国機関名
      バルセロナ自治大学
  • [学会発表] 「体制転換の人類学(1)――田沼幸子『革命キューバの民族誌』合評会+映像上映会」2016

    • 著者名/発表者名
      田沼幸子
    • 学会等名
      体制転換の人類学・基幹研究「アジア・アフリカにおけるハザードに対する『在来知』の可能性の探求――人類学におけるミクローマクロ系の連関2」公開シンポジウム
    • 発表場所
      東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(東京都、府中市)
    • 年月日
      2016-05-20 – 2016-05-21
    • 招待講演
  • [図書] 佐久間寛編『体制転換の人類学・基幹研究「アジア・アフリカにおけるハザードに対する『在来知』の可能性の探求――人類学におけるミクローマクロ系の連関2」公開シンポジウム』2017

    • 著者名/発表者名
      佐久間寛編
    • 総ページ数
      200
    • 出版者
      東京外国語大学アジア・アフリカ言語研究所

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公開日: 2019-12-27  

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