研究課題/領域番号 |
16K03228
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
多和田 裕司 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (00253625)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イスラーム / マレーシア |
研究実績の概要 |
平成29年度は、イスラームの「外縁」におけるムスリムの実践を検討するための具体的な対象として、イスラームにおける臓器移植を取り上げ、科学技術の急速な進展が、イスラーム教義解釈やムスリムの行動にどのような影響を与えているかについて考察した。 臓器移植や死の判定基準としての脳死は、イスラームの伝統的な死生観からはかけ離れているが、近年の移植技術の発展とともに、イスラーム世界全般において臓器移植を容認する教義解釈が一般的になってきている。 この動きをマレーシアについて詳細に検討すると、イスラーム側からのイスラーム教義解釈による理由付けが、医療側の生命倫理を背景にした移植手続きやガイドラインに整合的に収斂され、両者の間にほとんど違いがないことが確認された。具体的には、臓器提供者個人の意志確認、移植がもたらす恩恵や有益性についての考慮、商業目的での移植の禁止など、イスラームからも生命倫理の観点からも同種の主張がなされているのである。これは、イスラームが、イスラーム以外に源を有する事象との出会いの場(「外縁」)において柔軟に教義解釈を変更し、それによって現代社会に「適合的」なものになっていることを示している。 現地での調査としては、マレーシアのクアラルンプール市、アンパン市において、文化人類学的なフィールドワークをおこなうとともに、マレーシア国立図書館およびマラヤ大学図書館において、関連する文献資料を収集した。 本年度の具体的な成果として、マレーシアにおける臓器移植とイスラームの倫理をテーマとした研究論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は3ヶ年計画の研究の二年目にあたり、イスラームの「外縁」におけるイスラーム外的な要因の関与を、ムスリムの具体的な実践に則して分析することが第一の課題であった。 研究の遂行という点では、マレーシアでの資料収集を含めて、おおむね当初計画通りに実施することができた。調査日程の関係でシンガポールにおける資料収集を断念せざるを得なかったことが、唯一当初計画から変更した点である。 これまでの研究成果という点では、臓器移植とクリスマス行事への参加(昨年度の具体的テーマ)というまったく性格の異なるムスリムの行為の分析から、まだ仮説的なものではあるが、ムスリムの実践がイスラームの外的要因によって現代社会に適合的な方向に変容しつつあるという、イスラーム理解のための視点を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も、一年を大きく3期にわけて研究を実施する。 第1期は4月から7月までの期間であり、過去二ヶ年にマレーシアおよびシンガポールで得たイスラーム実践の「外縁」についての資料を精査するとともに、海外調査に向けての準備作業等をおこなう。引き続きマレーシアならびに東南アジアのイスラーム社会におけるイスラーム実践を論じる先行研究の収集に努めながら、これまでに得られた成果を先行研究に照らし合わせることで、イスラーム実践の「外縁」をめぐる一般的傾向を析出する。あわせてこれまでの資料収集における不十分な点を確認し、最終年度の海外調査で重点を置くべき課題を明確にする。 第2期は8月から9月までの期間であり、この期間に40日程度の海外での資料収集ならびに実態調査を実施する。具体的には、マレーシア(クアラルンプール市その他)での調査に1ヶ月程度、シンガポールでの調査に1週間程度をあてる。調査活動の内容としては過去二ヶ年の調査に準じるが、全体計画の最終年度であることから研究の進捗状況や補足的資料収集の必要性にあわせて各地域における調査期間について適宜変更を加えるなど柔軟に対応する。 第3期は海外での資料収集終了後年度末までの期間であり、平成28年度から30年度における海外調査によって入手した資料の分析をもとにしながら、本研究プロジェクトの総括として研究論文を作成する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)海外での調査日程を当初予定より若干短縮したため。 (使用計画)次年度予算に繰り越して使用する。
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