本研究は、民俗文化を当事者に種々の負担を強いるコストとして把握し、そのコストとモチベーションという観点から実態を捉え直すと共に、その調整過程を明らかにしようとするものである。対象地域は、東北から南島まで広く設定し、その事例も民俗文化財や世界遺産として登録された内容をも含み、民俗学・宗教学・歴史学の知見を生かし横断的な解明を試みた。継承された民俗文化については、文化資源や観光の文脈で注目されてきた視角であるが、それが時に当事者にとっては重い負担となることは従来重視されてきたとは言いがたい。本研究は、まずは民俗文化が当事者においてこうした重いコストであり得ることを改めて強調し、その上でコストを引き受けることの有意性を明らかにし、民俗文化の継承における新たな知見の提起を試みた。 本年度は個々の最終年度報告会を開催し意見交換をおこない研究を深めた。その結果研究成果として、『民俗文化の継承におけるコストとモチベーションに関する基礎的研究』と、資料集『百万遍人別帳 津川町下田町人別・諸掛表 寛政十一年~慶応四年』の二冊を刊行した。前者は、民俗文化継承においてコストとモチベーションという視角の有効性を明らかにした。執筆者全員の論考から民俗文化従事者において民俗文化の遂行は多大なコストを伴うことが確認され、他方それをモチベーションに変換し継承を遂行する例も確認し得た。その上で、民俗文化の継承における種々の継承に関する工夫や遂行実態を明らかにすることで、民俗文化の継承をコストとモチベーションの調整過程として捉える有効性を提起した。後者は、約200年間継承された文書の整理をおこなった上で寛政十一年~慶応四年に着目し、継承される民俗行事がコストを伴いおこなわれ得たのかをまとめた。 上記の成果は博物館での市民講座でも公表をおこない、冊子媒体とあわせて研究成果の還元をおこなった。
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