一年間の延長により、最終年度となった2019年度には、当初の計画にはなかった新たな深みを研究成果に加えることができた。 1)2019年7月、シンガポール人(20~40代、22人)にインタビューを行い、そのアジア観を知ることにより、前年度までに行った同年代の同国在住日本人(41人)へのインタビュー結果と比較考察をおこなった。また、シンガポール政府のアジア主義的な多文化主義的政策を、街なかを参与観察してより深く知ると同時に、政府の思惑がシンガポール人青年たちの間でどのような(批判的)感情を引き起こしているかを知った。彼らの世界観をまとめるならば、以下の通りである。シンガポール人青年は、日本人青年のように「アジアVS.西洋」という二項対立や、「シンガポール=アジア」という等価性を信じているわけではなく、むしろ中国やASEAN諸国から自分たちを差異化することを望んでいる。彼らは競争の激しい、狭い母国で有利に生きるためのキャリア形成の場として、西欧を当前のように利用する。このとき日本は、文化・言語的な憧れの対象として、「アジア」でも「西洋」でもない第三の場として浮上する。これは日本人青年が、西洋での夢が破れ、代わりに「(自分もその一部である)アジア」を発見する場としてシンガポールと出会うのとは対照的である。 2)上記の考察を、現地調査の翌月(2019年8月)、IUAES(国際人類学・民俗学会連合)の大会(於 ポーランド、ポズナニ市、アダム・ミツキェヴィッチ大学)にて発表し、国際的な聴衆と、示唆に富む質疑応答や意見交換をおこなった。 3)2018年度の成果を英語で論文執筆し、学術誌 Asian Anthropology(香港中文大学人類学部発行)の次号への掲載が決定した。2019年度の成果は、この論文の続きとして、同ジャーナルまたは他の英文ジャーナルに投稿、発表する予定である。
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