研究実績の概要 |
本研究のメインテーマは、急増するアフリカ人の国際移動という現象に直面し、「頭脳流出」という問題が指摘されるようになった事に対して、その実態を人類学的フィールドワークで明らかにすることを目的としている。これまで中心的役割を担ってきたアフリカからの男性移民は、非熟練労働者が多かったが、本研究で注目した人びとは母国で高等教育を受けた後にアメリカで暮らす頭脳流出の状態にある人びとである。従来の政策では、流出した高技能者を母国へ戻すことを奨励してきたが、それも一筋縄ではいかない。そもそも、流出した「頭脳」とは移住先で子供を育て、働く人間であり、その帰還政策は彼(女)らの人生計画と折り合わない場合が多いのである。 本研究では、筆者が2015年以来、米国で収集しつつあるケニア共和国出身のギクユ人移民の調査データを基に、その知識が母国ケニアの未来と交差する可能性を見極め、頭脳流出という現代的問題に人類学的に取り組んだ。 本研究の最終年度にあたる平成30年度は、研究会での発表、研究者とのディスカッション、追加調査および執筆に多くの時間を割いた。平成30年の夏休みは、膨大な量のフィールドワーク・データの整理、課題のリスト化、また関係資料や文献の解読に努めた。11月には研究対象とするギクユ人移民が暮らすメリーランド州、3月には送り出し国のケニアへ出向き、幾つかの不足資料の収集およびこれまでの研究成果を共有して現地の人びとの意見を伺う機会を得た。アジア経済研究所の研究会で2度の発表を行った上、研究論文として“Living in the Past and Future: Anthropological fieldwork on Kikuyu Immigrants in Maryland, USA”『聖心女子大学論叢』(聖心女子大学、2018年12月)を執筆することができた。
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