30年度は、年度の初めより前年度までの実地調査で収集した資料の整理・分析をおこなった。その過程でソロモン諸島のバハーイー教徒とキリスト教徒の関係性について考察し、関連する調査項目等を検討した。その後、8月にはソロモン諸島の首都ホニアラおよび村落部において約2週間の実地調査を実施した。 本年度の実地調査からは、バハーイー教徒がキリスト教的価値観を継承するとともに、とくに伝統的領域の活動においてキリスト教徒と協働していることが明らかとなった。彼らは日常的な宗教実践において部分的に聖書やキリスト教的価値観に基づいてバハーイー教を位置付け、その来歴や正統性を解釈しようとする。また、日常的な祈りにおいて本来は区別すべき義務的な祈りと献身的な祈りの相違を曖昧に扱い、集団的な祈りを日課とするなどの形式を取っている。このような解釈や行為はともすればバハーイー法から逸脱し、またバハーイー教が潜在的に有するイスラーム的伝統を脱色する一方で、キリスト教的過去との連続性を示す。加えて、バハーイー教徒は、自らの親族であるキリスト教徒との交流も盛んである。たとえば彼らはキリスト教徒がおこなう結婚儀礼や葬送儀礼などに招待され、積極的とまではいえないが、その場に居合わせる。また伝統的領域および親族集団がかかわる活動については、キリスト教徒およびバハーイー教徒の別なく活動している。すなわちソロモン諸島のバハーイー教徒は伝統的領域という共通の事柄を基盤とし、さらにキリスト教的価値観に関しても共有できる余地を残しているがゆえに、キリスト教徒との共生が成立しているといえる。 ソロモン諸島からの帰国後、学術論文の執筆をおこない、投稿した。また、その後も継続して収集した資料の分析を進め、研究成果のとりまとめを進めるとともに、新たな論文の執筆を進めた。
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