研究課題/領域番号 |
16K03239
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研究機関 | 相模女子大学 |
研究代表者 |
浮ヶ谷 幸代 相模女子大学, 人間社会学部, 教授 (40550835)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 地域ケア / 精神医療 / カフェデモンク / 宗教 / 精神障がい者 / 居場所 / 多世代共生 / エイジング・イン・プレイス |
研究実績の概要 |
<カフェデモンクえりも>は、2015年8月設立以降、月一回順調に開催されている。常に参加者数は20人前後であり、ひきこもりや精神障がいの当事者たちもまた新たな生活へ一歩踏み出している。 2017年度の研究成果には学術的成果と実践的成果がある。学術成果として、<カフェデモンクえりも>の活動の継続に参与し、ひきこもりや精神障がいの当事者とその関係者(家族、専門家スタッフ)から話を聞き、当事者の自己変容のプロセス、そして自己変容をもたらした<カフェデモンクえりも>の場所性について明らかにしたことである。研究成果の公開の機会として、2017年10月30日、日本大学社会学会で特別講演会「『地域ケア』を構想する--現代社会における人文社会科学の今日的役割を考える」(日本大学文理学部)を行った。また、講演内容をもとに、日本大学社会学会紀要『社会学論叢』への特別寄稿「『居場所』を創る--精神医療と宗教との連携による<カフェデモンクえりも>の活動を中心に」が2018年度に刊行される予定である。 実践的成果として、研究協力者の浦河ひがし町診療所の高田ソーシャルワーカー(以下、高田氏)とともに、えりも町での小規模多機能ホームの開設に向けていくつかの課題に取り組んだ。①2017年11月に石川県金沢市の社会福祉法人佛子園の「ごちゃまぜケア」を高田氏とともに見学した。②2017年9月から2018年3月まで、ボトムアップによる地域づくりを実践するために、えりも町の住民や保健師、ケアマネ、診療所のスタッフや精神障がいの当事者たちによる「地域デザインミーティング」(4回)を開催した。③2018年3月には、<カフェデモンクえりも>の主催でえりも町住民を対象とした映画「ケアニン」を上映し、関係者によるシンポジウムを開催した。その結果、2018年の秋にえりも町に小規模多機能ホームが開設される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、<カフェデモンクえりも>の活動を追跡調査することを目指していたが、<カフェデモンクえりも>主催のミーティングや研修会、シンポジウムの開催に取り組むことで、えりも町の老若男女入り混じった多世代共生型「地域まるごとケア」の実現に向けて大きく展開しているからである。 なかでも、2017年度の研究の取り組みの特徴は、①障がい者アート(アールブリュット)の活動の調査、②中高生の生活実態調査を行った。①に関しては、浦河ひがし町診療所のナイトプログラム「音楽の時間」の活動が、札幌国際芸術祭に選ばれ、8月から10月の期間、精神障がいの当事者が札幌市内や市外にて毎週パフォーマンスを披露する機会があった。そこで、相模女子大学の研究助成(2016年度~2017年度、共同研究)を受けて、活動の実態について現地調査し、障がい者活動の一環としてのアート活動の意味や取り組む当事者の思いについて明らかにした。学術的成果としては、本テーマに関する論文が京都大学人文科学系のオンラインジャーナル『コンタクトゾーン』に掲載される予定である。 ②に関しては、相模女子大学の研究助成(2017年度)を受けて、えりも中学校校長と高田氏の協力のもと、えりも町立えりも中学校・高校の中高生の生活実態調査を行い、報告書を作成した。この調査を通して、中高生にとっての居場所のなさが明らかとなり、<カフェデモンクえりも>の活動が中高生向けの活動を生み出す際に、参考材料になることが明らかとなった。えりも中学校校長は、新設予定の複合施設内に中高生主体の図書室を実現させるために関係者を巻き込み取り組み始めている。以上のように、これまでひきこもりや精神障がいの問題をテーマとしてきたが、現在は高齢者、障がい者、若者世代をも視野に入れた「地域ケア」づくりへと展開しているからである。
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今後の研究の推進方策 |
今後、取り組む課題は4つである。一つは、これまでの<カフェデモンクえりも>の活動を注視しつつ、当事者のみならず、一般の参加者たちのインタビューなど、続けていく予定である。そのうえで、居場所の「場所性」について理論化していくつもりである。 二つ目は、2018年秋に実現する小規模多機能ホームの進捗状況を追跡し、そのプロセスについて調査していくことである。そのホームが、高齢者にとって「エイジング・イン・プレイス(住み慣れた場所でいつまでも)」を実現しているかどうか、また多世代共生型の「地域まるごとケア」を創造する場になりえているかどうか、調査研究を進めていく予定である。 三つ目は、障がい者アートの活動が日高圏域全体に広がりつつあり、ネットワーク作りが始まっている。浦河ひがし町診療所をはじめとして、周辺地域の知的障がい者施設や身体障がい者施設、社会福祉法人、医療機関などを巻き込む活動として展開していくことになっている。こちらも、引き続き調査を続行していく予定である。 四つ目は、中高生による「地域づくり」の一環として、えりも中学校と役場の担当課との連携のもと、生徒たちを図書室づくりの企画の段階から参加させていく動きがあり、若者世代が主体的に取り組むことができるかどうかを調査していく予定である。 以上のような取り組みを継続調査していくことで、多世代共生型の「地域ケア」(地域まるごとケア)が創出されるプロセスを明らかにしていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度は、科研費以外の学内助成金(2つの助成金は2017年度で終了)を獲得していたことから、フィールド調査の出張旅費が分散したため、科研費の予算に残金が発生した。2018年度は、残金と合わせて主にフィールド調査の出張旅費に充てる予定である。また、「地域まるごとケア」の実践地、滋賀県東近江市永源寺地区に研究協力者の高田氏と見学に行く予定であり、その出張旅費に充てる予定である。
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