最終年度は、3回の学会発表を行った。5月には、弘前で行われた第52回日本文化人類学会で、7月には、ブラジルで行われた18th International Union of Anthropological and Ethnological Sciences (IUAES) World Congressで、また11月には、フィリピンで開催された40th UGAT Annual Conference an International Gatheringで、発表した。国際学会発表は、いずれも本科研によって構築された人脈を通じてグループを形成し、発表に至った。2020年には、リスクに関する国際ワークショップを開催する予定である。 また、8月にはマーシャル諸島にて漁労文化の調査を行った。しかし、ロストバーゲージのため、10日間を予定していた調査期間が、半日になってしまい、ほとんど漁労データが集まらなかった。ただし、漁労に関する知識や話を収集することができた。とりわけ、移住によってカヌーの保有数が減少し、カヌーを操縦する知識も喪失したことが明らかになった。 今年度は、所属先の移動、自身の転居、仕事内容の大幅な変化などにより、これまでの調査によって得られた内容を学会で発表するにとどまり、当初の予定である論文にまとめることができなかった。 これまでの調査において、個人にインタビューする際に、日常的に語られる被害の言葉と、デモや議員などが語る言葉では、質が異なることが明らかになった。他者理解と言う文脈では、加害者側と被害者側の理解度の温度差があることもわかった。被害や補償にかかわる相互理解が進まない理由を、ポストコロニアルの文脈で考察する必要性があることが明らかになった。
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