研究課題/領域番号 |
16K03244
|
研究機関 | 京都女子大学 |
研究代表者 |
工藤 正子 京都女子大学, 現代社会学部, 教授 (80447458)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 若者 / 世代 / 国境間移動 / イスラーム / アイデンティティ / ジェンダー / 階層 / マイノリティ |
研究実績の概要 |
日本人の母とパキスタン人の父をもち、現在20代に達しつつある日本人ムスリムの若者たちへの詳細な聞き取り調査の結果から、日本、パキスタン、アラブ首長国連邦を主な拠点として成長する過程でのトランスナショナルな移動と教育達成、キャリア形成等に関わる実態および、その背景にあるナショナル/グローバルなレベルでの構造的諸要因が明らかになりつつある。平成28年度中に行った調査研究から主に以下のような点を照射することができた。 1.若者たちのトランスナショナルな移動の過程で動員される親世代と第二世代の社会的、文化的資源や戦略や、様々な制約等、2.親密圏がグローバル化する過程で生じる親族関係の動態、そこでの感情やモノ、サービスの互酬的関係、国家間格差やジェンダー、世代等が絡まり合う親族集団内の権力バランス。3.日本および移動先の国における、外見や宗教等による排除の経験や、それへの当事者らの応答。 特に重要な成果として、これらの過程で生じている多面的かつ複雑な宗教的、文化的なアイデンティティの形成や、その過程と不可分に関わる社会的ネットワークの形成プロセスが明らかとなった。このほか、現時点での若者たちの課題として、国際結婚の第二世代の婚姻をめぐる意識や実践についても聞き取りを行うことができた。 既存研究では、超国境的な家族の形成に国家、階層、ジェンダー、宗教等の差異がいかに交差することが明らかにされてきたが、本調査においては、そうした複合的な差異や力関係の相互作用に世代という時間軸が交わることで、いかなる社会、文化的変容が生じつつあるのかが明らかとなりつつある。これらの成果は、グローバル化が深化するなかで生じつつある社会的、文化的動態や、社会統合、マイノリティの包摂や排除をめぐる諸課題等に対して、日本およびアジアという地点からの事例を提供するものである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年4月以降、調査の設計や準備等を行った後、6月に国内(主に関東圏)と海外(アラブ首長国連邦とパキスタン)において日本人の母とパキスタン人の父をもつ日本人ムスリムの若者を主な対象に聞き取り調査を開始した。現在まで、若者31名から1回につき1時間30分~3時間の聞き取りを行い、うち5名からは2回目の聞き取りを行い、そのうち4名については日本と海外の双方での聞き取りを行うことができた。 2016年度には関東圏の調査のほか、次年度以降に予定していたアラブ首長国連邦およびパキスタンで調査を行うことができ、複数の地点からの調査を効果的に進めることができた。 若者世代のほか、親世代からも可能な限り聞き取り調査等を行い、多角的なデータを収集するよう努めた。並行して、親密圏のグローバル化、世代間の階層移動、移動する若者のアイデンティティ形成、社会の多元化に関わる政策等に関する文献調査を進めた。 1月には、国内2か所において成果の中間報告を行った後、聞き取り調査を続けながら、データの整理・分析を進めた。現在、これらの調査データを整理し、調査内容を軌道修正しつつ理論的方向性の検討を進めている段階である。
|
今後の研究の推進方策 |
研究成果の中間的なまとめと報告を国内外の複数の会議やワークショップで発表し、そこでの討論や情報交換をもとに更に分析を進める。 また、日本国内での聞き取り調査を可能な限り進めるほか、今年度はイギリスに在住するケースについても聞き取りを行う予定である。 並行して関連分野の文献調査を進め、理論的な方向性を検討する。
|