研究課題/領域番号 |
16K03245
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
村上 志保 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (90526790)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 中国 / 宗教政策 / キリスト教 / 国際教会 / 公共圏 / 都市空間 |
研究実績の概要 |
本研究は中国最大の経済都市である上海市の経済をけん引する機能を多く備えた浦東新区を中心に、上海および北京といった経済発展と国際化の進む都市におけるプロテスタント教会の現在の状況を研究対象としている。特に上海および北京において2000年度以降急速に拡大、発展する外国人による国際教会(外国人教会)を主な対象とし、外国人をはじめ留学などの海外経験者の多い地域における教会活動の変化に焦点を絞って研究を行っている。 調査を通じて明らかになりつつあるのが、宗教とりわけ海外との関わりの深いキリスト教会をめぐる社会的文脈として、2012年以降の習近平政権下において民族主義の強調と国際化の進行という相反する方向性が一層顕著になっているという点である。この相反する方向性のはざまに位置する状況として本研究では中長期的に滞在する外国人を主な対象とした国際教会とそれを取り巻く中国社会状況を対象に調査を続行中である。 平成29年度は昨年度に引き続き8、9月及び3月の二回にわたって北京および上海それぞれにおいてフィールドワークを行った。また28年度の調査結果に基づき、平成29年5月27日に日本文化人類学会において「中国における外国人プロテスタントの宗教活動の拡大-上海市感恩堂、鴻恩堂および北京市海淀堂のケースから-」というタイトルで学会報告を行った。さらに調査内容に基づき国際教会の概要をまとめた論文として「中国における国際教会の拡大-上海と北京の状況を中心に-」を『立命館国際研究』第47号(2018年3月発行)において発表した。また、研究対象である教会の国際化と関連する状況としてキリスト教の「中国化」をめぐる近年の議論について、『ことばとそのひろがり(6)-島津幸子教授追悼論集』(2018年3月発行)において論文「中国におけるキリスト教「中国化」-「中国化」をめぐる議論と教会の変化-」を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度におけるフィールド調査、関連書籍及び論文の収集、インタビューによって明らかになってきた状況に基づき、平成29年度は国際教会の牧師数名や複数の信者に対して、より具体的な内容についてインタビューを行った。それによって、上海および北京で活動するいくつかの国際教会の実際の状況についてさらに詳細かつ興味深い状況を知ることができ、更なる調査の必要な部分が明確になった。 また平成29年度は香港に滞在し、現地の研究者と意見交換をするとともに中国では手に入らない資料を得ることができた。香港の教会や学術界では、2018年2月以降中国における宗教関連法規および管理体制において生じている大きな変化について盛んに議論や研究会が行われているが、今回2018年3月に香港で行われた研究会に参加し、香港における中国キリスト教研究の第一人者である研究者から現在の中国の宗教状況について話をうかがうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
習近平政権の宗教政策がより管理強化の方向性へと変化したことにより、中国人教会や中国人信者を対象とした調査はより難しくなりつつあるが、国際教会や外国人ネットワークを通じての調査は比較的実施しやすいと言える。中国における国際教会は、中国の宗教政策により中国国内の教会や社会に対してほぼ閉ざされている教会であるが、しかし中国において徐々に拡大・発展するとともに中国社会におけるプレゼンスも少しずつ高まりつつある。上海のような国際都市においては、他の都市と比較して政府が積極的に国際教会を活用し、公的に位置づけようとする状況もある。そのような国際教会は海外とのネットワークも備え、興味深い事象や活動の場ともなっているが、国際教会をめぐる調査および研究は今のところほとんど行われていない。この状況を鑑み本研究では、国際教会をめぐる詳細な調査を通して、状況の解明に一層尽力する。 さらに平成30年度末には上海において新たな国際教会が開設予定である。この教会は現在浦東新区において進行中である国際化およびホワイトカラー層を対象としたハイエンドな都市空間の建設と共に計画された教会であり、中国の他地域には見られない特徴を備えており注目に値する。本研究ではこれまで複数回建設地に足を運び、周辺の開発の進展とともに教会建設の様子を記録している。今後も本研究では浦東新区における都市開発という背景と合わせて新たな教会開設をめぐる情報の収集を続行し、詳細なプロセスを記録に残す予定である。それら新たな状況を加えつつ、今後の研究では国際教会をめぐって見えてくるキリスト教の国際化と中国化という二つの側面を詳細に分析してゆく。
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