研究課題/領域番号 |
16K03246
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
友永 雄吾 龍谷大学, 国際学部, 准教授 (60622058)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 先住民族 / 伝統的知識 / 環境保全 / 流域資源 |
研究実績の概要 |
本年度は以下の研究成果を得た。 ① 流域周辺の地域コミュニティにおける「環境保全」に関する伝統的知識を特定するために、オーストラリアでは1830年代まで、調査地域の先住民ヨルタ・ヨルタの先祖がイグサや水草を原材料に作成したバスケットを、当時の作成方法を再現しつつ作成するワークショップに参加した。さらに、ヨルタ・ヨルタ・ネイション・アボリジナル法人の理事に2006年から実施する文化地図の活用方法について聞き取りした。 ② オーストラリア南東部ではヨルタ・ヨルタ・ネイション・アボリジナル法人の理事と会合し、法人の役割について見聞した。また2017年10月に開催予定のシンポジュームへの参加の承諾を得た。 ③ 外来知と在来知との相互作用と整合性のあり方を解明するために、一定の周波数による超音波が汚染水の浄化に役立つことを明らかにした環境システム工学の知見を導入する予定であったが、京都府亀岡市での実施にとどまり、オーストラリアでは実施できなかった。今回は2013年から実施してきた犬飼川の水質と音との関係を検討するため、3地点でサンプを収集し、それらを業者に調査依頼した。結果、水質要素として無機物に当たる「カルシュウム」と「マグネシュウム」に注目し、人間の可聴領域である30Hzから3kHzの範囲で音と水質の変化の関係について検討した。 ④ 2017年1月に北海道大学のアイヌ・先住民研究センターにて流域資源の環境保全に関する自然体験学習を実施する対象地について関係研究者との打ち合わせを実施した。 以上の調査結果は、2016年11月にヴェトナムで、12月にオーストラリアで開催された国際学会にて報告した。また2016年10月に京都府亀岡市で開催されたシンポジウムで公演し、その内容を2017年3月に亀岡市の助成を受けた報告書にて公表した。さらに龍谷大学の紀要『国際文化研究』に論文を掲載した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、オーストラリア先住民の在来知と、その他アクターの外来知の相互作用のあり方について検討した。 まず、南東部オーストラリアにおける流域資源の保全制度の変遷史について国、州、地方公共団体などが出版した流域資源保全に関する行政文書や新聞記事等を渉猟し明らかにした。その資料分析からは、流域資源の環境保全にかかわる諸アクターについても特定した。さらに、流域資源保全に対する「伝統知」を特定するため、「マレー河とダーリング河下流域における先住民ネイションズ」が議論する先住民のみが利用可能とする「文化的洪水」について、ヨルタ・ヨルタ・ネイション・アボリジナル法人の職員にインタビューをし検討した。さらにバルマ森林の狩猟・漁労・採集に関する3世代の記憶を記録した「土地の利用及び占有に関する地図」を、2006年からヨルタ・ヨルタが作成しており、それについてゴールバーン河流域調査機構とヨルタ・ヨルタ・ネイション・アボリジナル法人の職員から聞き取りした。ただし「音による水質保全調査」の継続と自然体験学習を開催することができなかった。また、流域の地域社会におけるネットワーク化のための実践例を集めたデータベースを作成できなかった。 日本の流域資源保全にかかわる予備調査に関しては、北海道南部のアイヌ・コミュニティを対象に実施する予定であったが、実施できず、代わりとして北海道大学アイヌ・先住民研究センターの研究者と会合し、調査地と調査方法を再検討した。 こうした調査の成果は、2016年11月ヴェトナムのホーチミンにて開催された国際学会と、同年12月にオーストラリアのシドニーにて開催された国際学会でそれぞれに発表した。さらに京都府亀岡市にて開催されたシンポジュームでの公演とそれをまとめた報告書に公開するとともに、龍谷大学の紀要論文にも本調査の一部を掲載した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、オーストラリアと日本の先住民の在来知に注目し、それらと外来知との相互作用のあり方について解明する。具体的には8月から9月にかけてオーストラリアでのフィールド調査を実施する。また7月と2月に北海道でのフィールド調査を実施する。 日本の流域資源保全にかかわる諸アクターを特定化するために、当初は北海道沙流郡平取町二風谷アイヌ・コミュニティを対象地としていたが、白老にアイヌ国立民族学博物館が建設される予定であるため、白老アイヌ・コミュニティでの流域環境保全にかかわる諸アクターについて調査する。そこではアイヌの「伝統知」を特定化するため、殊に湖と河川流域でアイヌ協会白老支部が中心となり実施する「アイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生事業」の活動に注目し、流域資源保全の方法を特定する。ついで、アイヌ当事者代表機関の役割について検討するため、白老の博物館やアイヌ協会の代表者にインタビューを実施し、流域の資源保全のためにそれら機関が果たす役割について検討する。さらに、外来知と在来知との相互作用と整合性を解明するため、マレー・ゴールバーン河流域における「音による水質保全の調査」を展開する。さらに、白老アイヌ・コミュニティでは、「音による水質保全の調査」の実施可能性を探り、「アイヌの伝統的生活空間(イオル)の再生事業」との整合性について検討する。 10月には、「伝統知と近代知の相互作用」と題するシンポジウムを所属する龍谷大学にて開催する。報告者は、オーストラリア先住民である研究者2名、アイヌの研究者2名、沖縄出身の研究者1名、台湾原住民である研究者1名を予定している。さらに、流域の地域社会ネットワーク化と先住民族の流域資源保全の実践例に関するデータベース作成に取り掛かる。 最後に、上記調査をまとめて国内外の学会にて発表し、それに関する論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は所属する龍谷大学国際社会文化研究所研究の2年間のプロジェクトとして「水源地としての森林と流域の環境管理に関する日豪比較研究」に採用されており、その研究費を活用することで余剰が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の助成金の余剰分は、次年度の10月に所属する龍谷大学にて開催予定の国際シンポジウム「伝統知と近代知の相互作用」(仮題目)にオーストラリアから2名、北海道から2名、沖縄から1名、台湾から1名を報告者として招聘する予定であり、その旅費や宿泊費等にまわす計画である。
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