令和2年度は、研究代表者が勤務する北海道博物館において、同館所蔵の磯まわり漁具の再調査を実施した。また、北海道立図書館、函館市中央図書館、釧路市中央図書館、稚内市立図書館において、明治期から大正期の『小樽新聞』、『北海タイムス』、『樺太日日新聞』、『函館新聞』、『釧路新聞』の閲覧調査を実施した。北海道・樺太周辺海域におけるコンブ、テングサ、ナマコなどの磯まわり資源の採取・加工、海産物市況などに関連する記事を中心に収集を行うとともに、記事内容のデータベース化を進めた。また、三重県立図書館において『伊勢新聞』の閲覧調査を実施し、掲載記事から明治期から大正期における三重県伊勢・志摩地方の海女の生産活動、生活文化、県外への出稼ぎ等に関するものを収集するとともに、記事内容のデータベース化を進めた。 本研究プロジェクトを通して、以下の点を明らかにした。明治20年代以降、三重県志摩地方の磯焼けとテングサ資源の減少、中国向け寒天輸出の増加と原料テングサの需要の高まりが顕著になった際、注目を集めることとなったのが北海道のテングサ資源であった。資源豊富なテングサを目当てに、同時期以降、北海道の最北端に位置する利尻・礼文島に、三重県志摩地方の海女がテングサ採取を目的に来道し、漁に従事した。また、同時期の北海道沿岸部においてアワビやホタテガイなどの磯まわり資源の枯渇化が進んだことから、北海道庁独自の規制をかけて磯まわり資源の保全を図る一方で、大正期に入ると北海道水産試験場が中心となって利尻・礼文島でアワビの移殖試験を実施し、アワビ資源の枯渇に歯止めをかけることを試みた。この移殖試験には、三重県志摩地方出身の海女が雇われ、「種アワビ」の採取及び利尻・礼文沖合での放入作業に従事した。
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