研究課題/領域番号 |
16K03251
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
桑原 朝子 北海道大学, 大学院法学研究科, 教授 (10292814)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 御家騒動 / 御家物 / 加賀騒動 / 相続 / 家 / 赤穂事件 / 意識 / 対立 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度の作業を継続し、近世日本における現実の様々な御家騒動について概観すると共に、主要な御家騒動と御家物に関する史料・文献の収集・分析を行うことが中心となった。特に、昨年度検討した伊達騒動と並び、外様の大藩の御家騒動として文芸化も多くなされた加賀騒動については、金沢の史跡や資料館における現地調査も実施した。伊達騒動をはじめとする近世初期の御家騒動においては、相手方の非違を積極的に幕府に訴える動きが見られるが、17世紀末以降、家中の騒動が幕府に露見すると改易になるという見方が広まったこともあり、18世紀半ばの加賀騒動においては、幕府に知らせず家中だけで解決しようとする姿勢が顕著である。また、藩主の相続問題に加え、藩財政の立て直し等をめぐる家臣間の対立は、加賀騒動とほぼ同時期の他の御家騒動にもしばしば見られるものであるが、加賀八家と呼ばれる一万石以上の世襲の重臣達が藩政に強い影響力を持っていた加賀藩においては、家臣内部の上下格差が激しく、軽輩の破格の出世はとりわけ大きな軋轢を生んだものと考えられる。 このように現実の御家騒動のあり方は、その時期や各藩の特徴と結びついている一方、それを文芸化した御家物は、その主たる享受者である領民や都市町人らの意識と、より深く関係しており、それぞれのヴァージョンの相違の分析から、享受者の意識の通時的変容についても一定の見通しを得ることができた。 また、家や主従関係、忠義等についての問題が特に広く意識されるきっかけとなった、赤穂事件に関しても、史料・文献の検討を進めたため、こうした問題をめぐって当時の社会に存在した様々な意識の対立の様相につき、いくつかの重要な手掛りを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最初の計画においては、2年目にあたる今年度にパリを訪れてフランス演劇やその背景となる社会について研究し、比較の基盤とする予定であったが、昨年度後期にサバティカルを利用して半年間パリに滞在することが可能になったため、計画遂行の順序を入れ替えた。その結果、今年度行う予定であった作業の一部が既に完了していた反面、主に初年度に行う予定であった、近世日本の主要な御家騒動とそれを素材とする文芸である御家物に関する史料・文献の収集・分析が残っていたが、これについては現地調査も含めてほぼ終えることができた。よって、全体として見れば、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
3年目は、これまで行って来た日本と西欧に関する史料分析の結果を比較し、相続、家、親子関係、それらをめぐる経済的・法的問題を主たる手掛りとして、近世日本の御家物やこれに関連する文芸と17世紀のフランスを中心とする西欧近代劇、及び両者の背後の社会構造に、いかなる相違があり、それが何を意味しているのかを解明することを試みる。 この過程で、考察を一層深めるべき点や新たに検討すべき視点が現れることが予想されるため、図書館の相互貸借制度などを活用して研究の効率化を図りつつ、史料・研究文献の追加的収集や分析を行う。また、近世日本の家や親子関係については、儒家の議論においてはもちろん、町人の文芸においても、中国の経書や文芸が参照されていることが少なくない。したがって、当該研究期間以前に行っている、相続や親族をめぐる近世日中文芸の比較についても見直すとともに、必要に応じて中国関連の史料・研究文献を追加的に収集・分析する。 また、前年度に引き続き、メールのやりとりや研究会への参加を通じて、国内外の法学者や歴史家、文学者との意見交換を行い、議論の構築に役立てる予定である。
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