研究課題/領域番号 |
16K03257
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 正男 東京大学, 史料編纂所, 准教授 (80230994)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 紛争解決 |
研究実績の概要 |
裁判前後の地域社会の状況、裁判外の利害関係者・周辺地域社会の動向をも含む、紛争解決過程全体の具体的解明によって、非局所的法に基づく裁判が地域社会の日常的秩序形成・維持構造において果たし得た役割の変化、非局所的法と日常の行動規範との関連性の変化、すなわち14世紀日本における紛争解決過程の変容を実証的に明らかにすることが本研究の目的である。 本年度は、史料編纂所架蔵史料を中心として、13世紀後半から14世紀を対象に、非局所的法に関連する裁判事例の集積を進めた。そして、集積した事例のうち、13世紀後半の紀伊国阿弖川荘に関する事例に注目し、検討を行った。無年号・年欠のものを含めた関連史料を広く収集し、先行研究を参照しつつ、これらの年代を再検討、確定することによって、裁判過程を従来より正確に把握することができた。その結果、沙汰雑掌の推薦、任命、裁判途中での更迭、さらには、沙汰雑掌が代理となって裁判を進めることに対する当事者による拒絶など、紛争解決過程変容の前段階たる時期において、非局所的法の担い手と目される沙汰雑掌がどのような存在であったかについて、実証的に明らかにすることができた。 また、史料編纂所未調査関連史料の調査として、白山比咩神社・石川県立美術館・能登生國玉比古神社・三重県総合博物館・伊賀市史編さん室等において史料の調査・撮影を行った。撮影史料のうち、所蔵者の許可を得られたものについては、史料編纂所図書室から順次公開される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
史料編纂所架蔵史料を中心とした関連史料の調査による事例の集積について、当初はこの作業をできるだけ先行させる計画であったが、興味深い個別事例が見出されたため、そちらの作業を優先させることとなった。 個別事例に即した検討として採り上げた紀伊国阿弖川荘に関する事例については、無年号・年欠史料の年代を推定、先行研究の比定の誤りを正して、関連史料を裁判過程に正しく位置付けるなど、実証的な成果をあげ、紛争解決過程変容の前段階たる13世紀後半における非局所的法の有様を具体的に示すことができた。ただし、史料原本の緻密な調査を踏まえることによって、より多くの関連史料を正確に位置付ける可能性がありながら、時間の関係で、調査を実施することができなかった。 史料編纂所未調査関連史料の調査については、関係者の協力を得られたものを優先して実施し、撮影史料のうち所蔵者の許可を得られたものを、史料編纂所図書室から公開する手続を順次進めている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の史料収集・事例検討を踏まえた史料調査を、早期に計画、実施する。並行して、引き続き裁判事例の集積、それを踏まえて個別事例に即した検討を進める。特に、非局所的法の代表例である徳政令に関する事例を採り上げたい。具体的には、東寺雑掌が関与した徳政令および「応安半済令」関係の事例、徳政令類似の法であり、宇佐神宮領を中心とした九州地方において豊富な関連史料が現存する「正和神領興行法」の事例を想定している。個別事例としてある程度の検討を行い得たものは、随時論文として取り纏めて、学界に報告したい。 また、新たな事例の集積のために、史料編纂所未調査関連史料についても、随時調査・撮影を行い、許可を得られたものについては、史料編纂所図書室から順次公開する。具体的には、神宮文庫・京都大学図書館・天理大学附属天理図書館等の所蔵機関、及び近畿地方所在の寺院等を想定している。未紹介史料のうち重要なものは、所蔵者の許諾を受けて、翻刻などのかたちで適宜学界に紹介したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
史料編纂所架蔵史料を中心とした事例の収集及び阿弖川荘に関する事例の検討に時間を要し、事例検討を踏まえた史料調査を年度内に実施することが出来なかったため。また、それにともなって、史料調査で使用する計画であった携帯型パーソナルコンピュータ等の物品購入を見合わせたため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度の事例検討を踏まえた史料調査を、次年度の早期に計画、実施する。その際に、調査用携帯型パーソナルコンピュータ等の物品も購入する。
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