研究実績の概要 |
本研究計画は、2つの目的を有している。一つは、スンナ派四法学派の一つシャーフィイー派の法学説の展開を、ハディース(預言者伝承)との関係において辿ることである。同派は、他のスンナ派法学派と同様、預言者伝承をクルアーンに次ぐ権威を有する法源としている。本研究は、預言者伝承と同派の学説を比較対照することにより、預言者伝承と、シャーフィイー派および他の法学派の学説が、互いに影響を与えあいながら展開した過程を追った。その成果は、特に、2019年1月に刊行されたStudies in Legal Hadith, Leiden and Boston, 2019と、2020年3月に『西南アジア研究』に掲載が決まった「ハディースの計量的分析の試み―ブハーリー『サヒーフ』を資料として」に結実した。またこの論文を発展させた英文による原稿がほぼ完成に近づいている。 本研究計画のもう一つの目的は、シャーフィイー派学説の東アフリカへの移植の実態を解明することであった。こちらに関しては、当初の予定よりも進捗がかなり遅れ、目的を達成したというにはほど遠い状態である。現況としては、シャーフィイー派法学がイラクやイランから東アフリカに伝播するにあたって、少なくとも学説の伝授という点では、イエメンで活動した法学者イムラーニー(1162年没)が一定の役割を果たしたことが分かり、この人物の学説と、それ以前のイラクやイランにおけるシャーフィイー派学説の比較を試み、英文による、先買権(不動産またはその持ち分が第三者に売却された場合に、その隣人あるいは他の共有者がこれを買い戻すことのできる権利)を主題とした原稿を執筆している。
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