研究課題/領域番号 |
16K03259
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石井 三記 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (60176146)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 基礎法学 / 法制史 / 人権宣言 / 近代フランス |
研究実績の概要 |
フランスは、1789年の革命以降、政治体制が共和制から帝政、復古王政へと移り変わり、1848年の二月革命から考えても第三共和制の初期が「王政待ちの共和制」と呼ばれていたように、さらにもう一周すると言ってもいいくらいに変遷きわまりない。じつは19世紀のそれぞれの体制ごとに、憲法や憲章は人権にかんする条項を置いていたのであるが、第三共和制憲法には人権規定はなく、組織法律の位置付けであった。しかし、逆説的ながら、この時期こそ革命期の人権宣言への注目がなされていて、フランス憲法学の歴史でいわれる「人権」概念から「公的自由」概念への法化が進むことの内実を、ランス大学法学部長でもあるブドン教授を招聘して講演してもらい、その翻訳を質疑応答とともに公表することができた。 また、2017年9月30日の法制史学会秋季シンポジウムにはパリ高等師範学校のアルペラン教授を招き、近現代のフランス、ドイツそして日本の三か国において、人権の主要な担い手とされる弁護士職の歴史的文脈の中で検討する講演をしていただき、具体的な裁判事件、たとえば19世紀末のドレフュス事件の際の中央地方の弁護士の反応とともに、宗教的な点でむしろカトリックの弁護士がドレフュスを擁護していることなど明らかにされた。 さらに、2017年6月に研究代表者は、時代は革命前となるが、啓蒙期の刑法改革の思想潮流の中でベッカリーアやモンテスキューを哲学的な騎乗の空論として批判した刑法学者ミュイヤール・ド・ヴーグランを取り上げた博士論文の審査委員として、著者及び他の審査委員と意見交換することができた。 今後は、昨年度まで研究代表者が部局長職についていたため、十分に行うことができなかったフランス現地での資料調査も精力的に続けていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成29年度まで研究代表者が部局長の職にあって、部局内及び全学のさまざまなプロジェクトにかかわらざるを得なかったため、十分な研究時間の確保ができなかったが、それも終了したので、平成30年度に端本研究課題に専心する所存である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度まで十分に行うことができなかったフランス現地での資料調査を、とくにパリ市歴史図書館に所蔵されていることが判明したフランス革命の、いわゆる教理問答形式での啓蒙書や第三共和制期の学校での公民教育の教科書類、たとえばCours d’instruction civiqueやLe droit usuelなどを収集分析し、人権宣言がどのように記述されているのかを、1889年のフランス革命百周年の時代背景も考えあわせて分析する。この百周年の時期には1789年人権宣言の版画も出されており、これらも分析の対象とする。そのことによって、人権規定が置かれていなかった第三共和制憲法の内実が逆に照射されることになろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度まで研究代表者が部局長職にあったため、当初予定していたフランス現地での資料調査ができなくなったため。 (使用計画)平成30年度は上記の部局長職も終了したので、フランス国立図書館やパリ市歴史図書館等での資料調査を行う。
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