フランス革命は法制史の観点からは、革命前のアンシャン・レジーム期の古法とナポレオン帝政期の近代法に挟まれたいわゆる中間法の時代とされている。その期間は十数年と長くはないが、近代法制度の礎となるのみならず、現代法にもつながる実験的な試みもなされた。その法的な最重要モニュメントとして、1789年の人権宣言が挙げられるだろう。革命はアンシャン・レジームとの断絶を強調するため、革命理念の普及に努めることになるが、その手段や方法はまったくの白紙状態から構築されたのではなく、革命前のカトリックの教理問答の類を利用するかたちで作り上げられた。このいわば革命理念のカテキズム類は、E. ケネディの研究によれば90弱ある。そして革命の進行につれてそのトーンが変わっていくことが興味深い。革命初期の1789年から90年頃はまだキリスト教的な色合いが濃く、だが公民的でもあるが、91、92年頃から次第に非キリスト教化が進むと世俗的で愛国的かつ啓蒙思想の影響を受けた理神論がベースとなる。そして94年のテルミドールのクーデタ後には革命が秩序重視となるにつれて所有権が強調されていく。これらの教理問答ないし公民教育冊子類は安価で、たとえばラ・シャボシエールの小学校用『共和国道徳の原理』は25サンチームで、民衆協会で児童の読み上げに使用されたりしていた。また匿名の『フランス共和国教理問答』の判型は携帯できる大きさで93年人権宣言のテクスト、共和主義の十戒等あって、最後はラ・マルセイエーズが置かれている。女性の権利へ言及する『ヴォードヴィル風人及び市民の権利』も19世紀に再版されていた。このような法社会史的な研究はフランス人権宣言の法制史研究に新たな視野を拡大する知見として重要と考える。
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