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2017 年度 実施状況報告書

対話型調停の事件管理者に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K03261
研究機関大阪大学

研究代表者

仁木 恒夫  大阪大学, 法学研究科, 教授 (80284470)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード対話型調停 / 事件管理者 / 事前手続 / 比較法社会学研究
研究実績の概要

本研究は、民間調停機関の事前手続における事件管理者の役割について、理論的及び経験的に明らかにしようとするものである。調停の受付段階での事件管理者の役割は、日米ともにNarrative Mediationの基本的な考え方との親和性がうかがわれることから、その議論に依拠した概括的な理論的枠組の構築を前年度に行っている。本年度は、その成果を踏まえて、さらに二つの方向で研究を展開してきた。
第一に、利用者獲得のためのネットワーク構築である。北米の多くの調停機関では、事前手続担当者が裁判所や警察や行政機関と回付ネットワークを形成しているようであるが、本年度の実態調査によりIMCRのように地域コミュニティと密接な関係を背景に紛争当事者の利用が見込まれる機関も存在することが明らかになった。他方で、日本の民間調停センターでは、一般的な機関連携的回付ネットワークの形成にはいたっていないが、士業団体が運営する機関では構成員からの紹介が主要なアクセス・ルートになっていることが明らかになっている。利用者到達のチャネルの多様性を確認し、比較検討を進めている。
第二に、受付手続における事件管理者の役割の多角的な検討である。すでに前年度までにNrrative Mediationの枠組で事件管理者の役割を整理した。ここで獲得した知見を、より批判的な視点から検討してきた。受付段階のプロセスが調停終了時点での正当性獲得に寄与する一面があることが指摘されており、この段階での事件管理者の役割について、より慎重な検討が必要であることが明らかになっている。
また、対話調停本体についても、理論的及び経験的な研究を進めている。今年度は、研究成果の一部として、問題解決型モデルに依拠した対話調停で想定される発展段階にそった対話が当事者によって引き戻される事態を分析した「裁判外紛争処理研究において《法》を見る」を公表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

初年度に達成した民間調停の事件管理者の役割に関する概括的な理論モデルをもとに、平成29年度は事件管理者による利用者獲得のためのネットワーク構築について検討するとともに、受付手続における役割についてより多角的に検討を行った。
前者については、アメリカの理論として、Harringtonらの議論からADRの拡大が国家による紛争処理体制の管理を拡張することになる一方で、その理念である当事者の参加が低調であることが指摘されており、わが国のADR法制についても重要な示唆を得ている。そのことと関連して、北米の多くのADR機関が裁判所や警察から事件回付を受けているが、調査を実施したIMCRのように地域に浸透し当事者がアクセスしやすい機関があることが明らかになった。この点も、地域志向の士業団体でおもに団体構成員による事件回付ネットワークで事件を確保している日本の民間調停機関に適合的な戦略を考えるうえで有益な知見を提供する。すなわち、わが国の団体構成員による特有のネットワークは国家の管理を逃れているという意味では自主的紛争処理としての特徴を維持していることが明らかになっている。
後者については、Saantosによる南米の都市コミュニティ内のインフォーマル紛争処理に関する研究から、事件管理者の当事者に対する応諾要請が最終的な調停成立時点での正当性確保に寄与するように権力的な作用があることが明らかになっている。事件管理者の応諾要請場面をより広い調停プロセスの中で批判的に検討する視点は、Nrrative Mediationモデルの個別面接方式での傾聴に依拠した事件管理者による当事者の物語再構成作業について、多角的な分析の手掛かりを提供するものである。
以上、概ね計画どおり、わが国の調停機関の事件獲得ルートにつき理論的経験的な知見を得るとともに、事件管理者の役割についてより多角的な検討を進めている。

今後の研究の推進方策

平成30年度は、これまで獲得した事件管理者の事前手続での役割に関する研究成果と事件獲得につながる紹介ネットワークに関する研究成果とを接合し、対話調停における事件管理者の活動について統合的な理論の構築をおこなう。それにより民間調停機関の利用促進の構造を明らかにする。
この作業は、随時必要な文献調査及び実態調査により補完しつつ、進めていく。また、民間調停機関の運営に関与している専門職との研究会を定期的に開催しているが、その場で、情報収集を継続し、獲得した知見の相対化もおこなう。
研究成果は、より個別具体的なテーマを設定して取りまとめ、随時公表していく。その一部として、9月にポルトガルで開催される国際法社会学会で報告をおこなう予定である。本研究の全般については、2月に最終的なとりまとめをおこなう。

次年度使用額が生じた理由

(理由)
次年度使用額は、10431円出ている。研究はおおむね順調に進められており、この金額は誤差の範囲である。
(使用計画)
次年度使用額の10431円は文献調査のための書籍購入に使用することを予定している。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2017 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件)

  • [国際共同研究] エレブル大学(スウェーデン)

    • 国名
      スウェーデン
    • 外国機関名
      エレブル大学
  • [雑誌論文] 裁判外紛争処理研究において《法》を見る2017

    • 著者名/発表者名
      仁木恒夫
    • 雑誌名

      法社会学

      巻: 83 ページ: 11-20

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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